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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第一章 堕天の陰陽師、現世に顕現す ―The Fallen Onmyoji Rises―
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第四話「五尾の猫又と、夜を駆ける百鬼の影」 Five-Tailed Nekomata and the Hundred Night Demons

 それは、月も霞む朧夜のことだった。

 安倍家の奥座敷に、一陣の黒き風が吹き込んだ。


「……術式結界に裂け目? これは――呪詛!」


 芦屋宗惟が気づいたときにはすでに遅く、

 幼き流威の枕元には、黒煙のような邪気が渦巻いていた。


「――流威様っ!」


 宗惟が駆け寄るその一瞬前、

 屋敷の中庭に棲まう猫たちが一斉に動いた。

 流威を囲むように集まり、異様な気配に立ち向かうかのように――鳴いた。


「やめろ! お前たち、その呪いを……!」


 だが次の瞬間、黒い雷が落ちた。

 数多の命が、一閃の闇に呑まれ、塵と化す。


 ……静寂。


 その場に倒れ伏した流威の胸の上に、ふわりと、

 一匹の黒猫が降り立った。


 その背には五本の尾。

 瞳は金と赤の異色に輝き、背中から黒煙をたなびかせる。


「な……魂が、融合を?」


 宗惟が絶句する中、猫は言葉を発した。


「吾は、流威さまのために死を選びしものどもの化生。式神としてお傍に仕えよう」


 その体から漏れる霊圧は、並の妖怪を遥かに超えていた。

 通常、猫又とは二尾を持つ霊猫に過ぎない。

 だがこの存在は、数多の命を統合し、五尾を持つ。


「五魂統神・黒緋の猫又ごこんとうしん・こくひのねこまた

 流威は目を開け、猫を見つめた。

 そして静かに、手を差し出した。


「……式とならば、名を授けよう。“墨緋すみひ”。これより我が傍に」


 猫は一礼し、闇に還るようにして流威の影へと消えた。

 五尾の猫又・墨緋――それが、後に「影歩く式神」と恐れられる存在の誕生であった。



 ● 失敗の代償 ―― “邪詛術式”と百鬼の胎動



 この呪詛は、流威の命を絶つことが目的ではなかった。

 むしろ、術の失敗そのものに意味があった。


 術式は“不安定化式結界”と呼ばれるもの。

 対象が生き延びた場合、呪詛の反動として術式内部に蓄積された邪気が世界へと“漏れ出す”性質を持つ。


 その邪気は、地に溜まり、空に漂い、

 弱き魂に憑き、人外を狂わせ、やがて――百鬼を成す。




 その夜、京都の朱雀門周辺で異変が起きた。

 小さな妖怪や魑魅魍魎が、まるで何かに呼ばれるようにして集まり始めていた。


「百……いや、千に届こうという数……まさか、“百鬼夜行”の兆しか……」


 芦屋家の監視役が蒼ざめて報告した。


「反目派の連中が……術を暴走させたようです。術師も、関係者も、全員……“喰われました”」


 京都を裏から操っていた呪詛の一派――

 安倍家に反目する陰陽師たちは、百鬼の誕生と共に呑まれ、壊滅した。


 邪気は、もはや人の意志では止められぬ段階に至っていた。


 ● 安倍家 × 芦屋家 連合会議


 翌日、安倍家の奥殿にて、急遽重臣たちが集められた。


「……もはや“百鬼夜行”は数日以内に発動するものと見て間違いない」


 芦屋宗惟が冷静に言う。


「これは反目派の自滅などではない。何者かが、術式を“わざと暴発させた”。

 百鬼夜行の発生を狙った者が、裏に存在する」


「まさか……“外のもの”か……?」


 安倍家当主が呟く。“外のもの”――天の理すら逸脱した、神魔の存在。


「今こそ、我ら安倍と芦屋、百年ぶりの共闘の時かもしれぬな」


「異議はない。我が弟子、流威様の身に手を出す輩を、我が式で葬る」


 それぞれの式神が鳴き、結界が震える。

 静かなる戦支度。

 やがて訪れる夜に向けて、二つの陰陽の名家が、影と光を重ね始める――。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


本作は、「天才陰陽士が、天使の生まれ変わりだったら?」――

そんな、ある夜ふと頭に浮かんだ厨二病全開の妄想から始まりました。


神話、陰陽術、異世界、神界バトル、猫又、百鬼夜行、そして式神たち……。

自分の“好き”を余すところなく詰め込みながら、物語を紡いできました。

この先も、彼の戦いをどうか見届けていただけたら嬉しいです。


そして、もしこの作品を楽しんでいただけたなら――

評価・ブックマークをいただけると、筆者の大きな励みになります!


なお、他の作品も本作のスピンオフとなっており、

百目や神祖マザースライムといったキャラクターのストーリーも展開中です。

さらに、流威が“別作品のチートスキル”でサブキャラとして無双する異色作も連載しています。

試行錯誤の真っ最中ではありますが、ぜひ応援していただけると幸いです。


それでは、また次の物語でお会いしましょう。ありがとうございました!


――筆者より

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