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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第四章 異界洞穴、開戦の咆哮 ―The War Begins in the Hollow Below―
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第四十七話「王の牧場」 The King's Pasture

 ギャロームが最後の地層を貫いたとき、地上への道は開かれていた。十傑たちは帰還の準備を進めていたが――一つ、厄介な問題が残っていた。


 ルイのテイムモンスターたちが多すぎるのだ。


 通常、他国のテイマーや魔物使い、召喚士たちは、数十体規模で使役モンスターを管理する。それ以上は制御も保管も難しく、戦力としても維持コストが高すぎるからだ。


 だが、ルイの場合は違った。


 既に三桁を超えるモンスターを率いており、その中には階層主級、霊獣、果ては神話級――神祖マザースライムまで含まれている。


「ルイ様。この数をそのまま地上に持ち出せば……ただの王子どころか、災厄指定されかねませんぞ」


 半ば呆れながらそう忠告したのは、スライムと融合した“芦屋神祖”――元・陰陽師、芦屋である。


 融合とはいえ、芦屋の性格と記憶はそのまま引き継がれており、外見は青年となったが口調と所作はどこか「老成した頑固者」のままだ。


「……まったく。餌付け一つで進化してしまうとは、我ながら情けないやらありがたいやら。だが今は、主の護衛とこの群れの保全こそ我が使命。調和を崩すようなら、躊躇なく諫言させてもらいますぞ」


 ルイは苦笑した。


「ありがとう、芦屋。でも……モンスターたちをここに置いていくのは、やっぱり嫌なんだ。みんな、俺に懐いてくれてる。役割を果たした後、捨てるなんてできない」


 芦屋神祖はしばし沈黙し、スライム状の身体を揺らしながら言った。


「……ならば、この階層そのものを“飼育地”に変えてしまいましょう。空間固定、魔素浄化、モンスター同士の衝突を避ける為の生態区分……このスライム体ならば可能です」


 こうして、ダンジョン第一階層を“ルイ専用のモンスター牧場”として改造する計画が動き始めた。


 ギャロームが地形を整え、幻影魔術師クラウが森と湖を幻想で補完。晴明が護符と結界で安全区域を構築し、ヴァンの霊獣たちが秩序を保つ。


 そして中心では、芦屋神祖がスライム形態の肉体を展開し、空間を構造的に変質させていく。


 まるでひとつの国家が生まれるように、**“モンスターたちの王国”**が築かれていった。




 ***




 その一方、遠く離れた他国――とある魔導国家の奥深く。結界に守られた作戦司令室にて、一人の女が結晶球を凝視していた。


「……視た。ダンジョン第一層が……変質している。しかも、魔獣の王国として」


 彼女は国家に仕える“千里眼”の使い手。極めて希少な遠隔観測能力を持つ者だった。


「テイマー、では説明がつかない。あれは……“王”だ。魔獣たちにとっての」


 同時に、別の王国のスパイ組織でも報告が上がる。


「我々の諜報員が帰還した。とんでもない映像だ。見ろ」


 魔導投影には、無数のモンスターと、それを従える少年の姿。巨大スライムの中から現れた若き男が、指揮を執っている様子が映っていた。


「……彼は誰だ?」


「名は“ルイ・エルフィリア”。だが、調べれば調べるほど“その前”が見えない。出生記録も、生誕式も――すべて、数年前から突然現れている」


「まさか、転生……か?」


 会議室の空気が凍りついた。




 ***




 牧場化された階層の中心、ルイは最後に一言を放った。


「……誰に何を言われても、俺は俺のやり方で守る。仲間も、モンスターも、全部」


 芦屋神祖が静かに頷く。


「――良き王の風格、出てきましたな。いずれ、世界が貴方を見つけるでしょう。その時、名乗るにふさわしい“名”を」


「……ルイでいいよ。王でも、勇者でも、神でもない。ただの、ルイでさ」


 モンスターたちが、静かにうなずくように頭を垂れた。


 ――少年が築いた王国は、まだ誰も知らない。


 だがそれは、やがて世界の均衡を揺るがす“獣の楽園”として、歴史に刻まれることになる。

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