第四十六話 「増え過ぎた祝福」 The Overflowing Blessings
死に階層――第四十二層での激戦を経て、ルイと十傑は、ついに地上への帰還を開始した。
先頭を行くのは、巨大霊獣ギャローム。螺旋を描くようにダンジョンを削り、地上への直通ルートを掘り進めていく。騎乗する霊獣使いヴァンの指示に応じ、ギャロームは最短距離を選び、魔力の薄い層を的確に貫いていく。
――そして、その背後には。
ルイの後をついてくる、膨大な数の魔物たちの影があった。
霊獣、亜竜、魔狼、スライム、擬態系モンスター、元ボス級……その数、三桁を超える。それらはまるで統制された軍隊のように、無言のまま列をなし、ルイの後を忠実に追っている。
「……すっかり“軍団長”だな、ルイ王子」
双剣士サージュが皮肉混じりに呟くと、ルイは苦笑した。
「いや、本当に想定外なんだよ……。このテイム、止められない」
帰還の道中でも、ダンジョン内の魔物はルイを敵と見なさなかった。むしろ――懐いてくる。
そのたびに自動で契約が成立し、【テイムアクセサリー《魔核の環》】に経験値が蓄積されていく。そして、限界を超えた瞬間。
『新スキル取得――《神格招来》《魔獣言語化》《共感同調》《霊契進化》……』
ルイは一気に六つのテイム系スキルを獲得した。しかもその中には、あらゆる魔物との意思疎通を可能にするスキルや、契約後に自動進化を促すものまで含まれていた。
気づけば、意思の疎通が言葉を超えて成立し、魔物たちは「ただの使役対象」ではなく、意思を持った味方として並び立っていた。
――この時点で、ルイ自身も自分の能力を完全には把握できなくなっていた。
「“魔物と会話して、気に入ったら仲間になる”……なんて、もう子供向けの冒険譚みたいな話だな」
ミルフィーナが風精霊を撫でながら呟く。
「でもそれが現実に起きてる。ルイ王子が通った後、敵が味方になる。どんな異能よりも厄介かも」
その言葉に、ルイはふと後方を見た。
人の姿を取った霊体――芦屋神祖が、微笑を浮かべながら付いてきている。あの“芦屋キョンシー”が、神祖マザースライムに“餌”として選ばれた際、不可解な現象が起きた。
喰われることで霊力が再構築され、式神契約が完全に解け――それでも霊体として存在を保ち続けた芦屋は、“キョンシー”ではなく、**一人の霊格存在(神祖)**として復活してしまったのだ。
しかも現在の契約状態は、式神ではなくテイムモンスター扱いであり、ルイがその意図すら知らぬまま成立している。
「……もう、説明できる気がしないな」
ルイは独り言のように呟く。
芦屋だけじゃない。晴明も、式神として留まり続けているが、その力はもはや“現世のルール”を逸脱し始めていた。
自分の出自、前世、天使の力、陰陽術、転生。
――そして、テイム能力の“無限進化”。
この世界には、他国に“転生勇者”や“転生魔王”が存在すると聞いている。ならば、おそらく自分の存在も――とっくに感づかれているのだろう。
それでも。
自分にはやらなければならないことがある。
この力で、守れる者を守るために。
無数のモンスターたちと共に、少年は光射す地上へ向かう。
――その足音は、やがて世界に轟く“異端の王”の胎動となる。