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第四十四話 「死に階層突入」 Entering the Death Layer

挿絵(By みてみん) 


再突入――それは、迷宮の深淵へと踏み込む決意の証。


 十人の猛者たちは、再び禍々しい魔力が渦巻くダンジョンの入り口に立っていた。だが、今度の目的は探索でも討伐でもない。**「救出」**だ。


「……風の囁きが、蠢く魔を伝えてる」


 風の探索者・ミルフィーナは、足を止めると軽く目を閉じ、手にした風晶石を掲げた。


 彼女の周囲に淡い緑光が広がり、無数の小さな精霊たちが現れる。ささやかな風、揺らぐ葉、石の隙間から聞こえる土の呻き――ダンジョンそのものが生きているかのように、微弱な声が網目のように繋がっていく。


「……わかった。ルイ王子は42階層。まだ生きてる。動かずにいるから、休憩中か、あるいは――睡眠中ね」


 周囲に緊張が走る。


「二時間……。このままだと、あと一時間で“あれ”が起きる」

 ミルフィーナが口にした言葉に、何人かが眉をひそめた。


「“死に階層”か」


 霊獣乗り・ヴァンが頷く。


「42階層――4と2、“死に”を意味する忌避階層。三時間以上侵入者が滞在すれば、階層ごとに備えられた魔力炉が作動し、制限駆除システムが発動する」


「いわゆる、モンスターハウスの上位版。時間経過で無限湧き+高知能型の自動指揮体制が形成される。通称“死の軍団”。初見殺しどころか、知ってても死ぬ。そんな階層だ」

 ガリウスが重々しく呟く。


「階段で行ってる時間は無いな。……おい、準備しろ」


 ヴァンが霊獣の首元を撫でると、地下からずずず……と大地が震え、**巨大なワーム型霊獣“ギャローム”**が姿を現した。体長30メートル、胴体に刻まれた紋様は転移魔法を内蔵した迷宮特化の使い魔。


「こいつで階層を物理的にぶち抜く。だが、奥に行くほど壁の強度は増す。一階層落とすごとに全員で警戒して、すぐに移動準備しろ」


「面白くなってきたな」

 双剣士サイラが笑い、隣の兄サージュも無言で刃を撫でる。


「この顔ぶれ、もはや国家戦争級じゃないか」

 ファーリスの軽口に、クラウが幻影を展開しつつ淡く笑った。


「ルイ王子のために、ここまでの戦力を――。でも、彼に触れた者ならわかるはず。“ただの王子”じゃない。あの少年は……何かを背負っている」


 一人ひとりが剣を、杖を、信念を手にし、覚悟を研ぎ澄ます。


「出発だ。42階層まで、地面ごと貫く」


 ヴァンの号令と共に、ギャロームが地中を抉りながら前進を開始する。


 砕ける岩壁。魔力炉の共鳴。揺れる世界。


 十傑の突撃が、死に階層の運命を変えるために始まった――。

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