第四十三話 「救援の十傑」 The Ten Heroes of Rescue
――地上、王都ファル=セリア。
ダンジョンの入り口近くに設けられた観測拠点では、既に緊急報が駆け巡っていた。ルイが深層で消息を絶った――その一報に、対応は迅速だった。
ランスはダンジョンから這い上がるように地上へと戻ると、すぐに王宮の通信魔術陣を借りて連絡を入れた。
「――お願いだ。ルイが、一人で深層に転移された。時間が経てば経つほど、状況は悪化する」
ランスの言葉には、焦りと共に静かな決意があった。
彼は王族の血を引く名家の若き当主。その立場を使い、名家に連なるパーティーメンバーたちのコネを総動員した。
高ランク冒険者、王立魔法騎士団の一部、召喚術の名門、傭兵団の頭領、神殿騎士団の異端審問官――。
わずか数時間で選抜された精鋭九名が、王都に集結する。
「少年ひとりを助けるために、この顔ぶれとはな」
マントを翻しながら、隻眼の魔法剣士ガリウスが苦笑する。彼は、三大傭兵団の一角『天狼の牙』の副団長であり、魔法と剣技を併せ持つSランクの猛者だった。
「神に愛された子どもなら、なおさら救う価値がある」
そう言ったのは、神殿から派遣された美貌の女司祭・リュティア。彼女は神言による浄化と回復に特化した癒し手であり、奇跡の術を自在に操ると言われる存在。
他にも、炎槍の騎士ファーリス、封術士のアマリ、毒使いの双剣士サージュとサイラ、霊獣乗りのヴァン、風の探索者ミルフィーナ、幻影の召喚士クラウ。
どれも一国の精鋭として引っ張りだこの面々。普段なら同じ任務に集うことなど有り得ない顔ぶれだった。
そして、彼らをまとめるのが――ランス。
「俺は王子としてじゃない。仲間として、あいつを迎えに行く。協力してくれ」
短く、だが力強く放たれた言葉に、全員が無言で頷いた。
――。
再びダンジョンへと足を踏み入れた10人の戦士たち。
各々の足取りは重くも、確固たる覚悟に満ちていた。
「これより、ルイ王子の救出任務を開始する。」
ランスの宣言が静かに響く。
地上の光が遠ざかり、霧のような魔力が漂う迷宮へ。
幾多の罠、怪物、そして混沌が牙を剥く中で――最強の一団が、神の子を救うため、闇の奥へと進軍を開始した。
その背に、王国の希望と信義が宿っていた。