第四十二話 「モンスターたちの夜」 Night of the Monsters
静まり返ったダンジョンの一角。霧と瘴気がわずかに揺らぎ、崩れた回廊の奥にある小空洞に、ルイは身を潜めていた。
身体を横たえ、深く息を吐く。だがその眼には眠気よりも思索の色が濃い。
「……なんとなく、分かってきたな。テイムの仕組みってやつ」
今まで流れで使っていたスキルだったが、実際に極限状態で使用してみて、多くの事が見えてきた。
まず、テイムの手段は一つではない。
説得――言語や気配、魔力波で意思疎通し、理性的に交渉を試みる。
懐柔――弱った相手、あるいは孤独な個体に寄り添い、信頼関係を築く。
餌付け――食物や嗜好品を与え、懐かせることで契約を促す。
強制――魔眼や結界術などを応用し、霊的強制力で屈服させる。
討伐後――倒したモンスターの魂を捕縛し、再構成することで使役させる。
どれも、ルイに与えられたチート級の【高性能テイムスキル】が、常識外れの成功率を叩き出していた。
特に討伐後の魂テイムに至っては、式神召喚とほぼ同じ手順であり、霊力を用いずとも魂だけで契約が可能な点が特異だった。
(本来なら、このスキル一つで国すら作れる……そんなレベルだな)
そう呟いて、ルイはふと苦笑する。今さら気づいた自分に少し呆れた。
それでも――。
(今は、この力があるおかげで“生き延びられた”)
周囲には、テイム済みのモンスターたちが配置されている。
背を預けて眠っているのは、甲殻の地竜。回廊の天井には、透明化能力を持つ夜光のバジリスクが静かに這っており、壁際には炎を灯すマグマスライムが、暖を取るように小さく揺れている。
まるで野営地だ。だがこの環境を作れたのは、テイムという力を最大限活用した結果だった。
「少しだけ……寝よう」
ルイは地竜の腹部を軽く叩く。ごとり、と低いうなりを返すモンスターに守られながら、彼は石の床に横たわる。
緊張が緩むにつれて、疲労と眠気が一気に押し寄せてきた。
(次は……もっと手持ちを整えて、即戦力に育てて……)
思考の中でモンスターの性質や編成を考えながら、ルイはようやく、眠りへと落ちていく。
――その寝顔は、どこか満ち足りていた。
最強の式神使いは、いま、モンスター使いとしても一歩を踏み出す。
静かな夜が、彼の新たな進化を祝福するかのように、穏やかに過ぎていった。




