第四十話 「式神融合、覚醒する意志」 Shikigami Fusion, the Awakening Will
深層ダンジョン──そこは既に地図にない領域。苛烈な魔力が満ち、空気すら震えている。周囲は鬱蒼とした岩と魔晶で構成され、常にどこかからうなり声と爪音が響く。
「……来るぞ、晴明」
ルイの警告と同時に、岩壁を割って飛び出す影が五体、いや、十体、二十体と続いた。
「雑魚だけど……数が多いな」
晴明が呟くも、その口元には笑みが浮かんでいた。
「大丈夫だ。今の僕たちなら、数じゃ押し負けない」
式神《百目》《夜叉》《白狐》《雷童子》《飛頭蛮》を同時に展開。各式神がそれぞれの領域で暴れ出す。雷鳴と焔、幻惑と斬撃が交差する中、ルイのダンジョンアクセサリーが赤く脈動を始める。
(……反応してる?)
次の瞬間、アクセサリーが脳内にアナウンスを響かせた。
《一定数の撃破を確認。リンクスキル開放条件達成──》
《新技能〈式神合成〉〈式神合体〉を付与》
「これは……!」
突如としてルイの手元に式神たちの霊子データが浮かび上がる。まるで選択を促すかのように、融合候補が提示された。
「試してみるか。夜叉と飛頭蛮──合成!」
二体の式神が光と共に融合し、三眼の鬼女へと変貌を遂げる。その姿は禍々しくも美しく、武器を両手に持ち、背からは羽のような雷紋が広がっていた。
「合成成功……制限時間、10分か」
ルイは戦線へ指示を飛ばし、新たな合成式神を前線へ投入。合成式神はその圧倒的な攻撃力で敵を切り裂いていくが、10分後、霊子が弾けるように分離して元の二体へと戻った。
(なるほど……合成は一時的か。でも、これは使える)
さらに次の挑戦として、合体スキルを起動。
「今度は、白狐と雷童子……合体!」
強烈な閃光と共に、新たな存在が生まれた。雷をまとい、尾が五つに分かれた狐型の霊獣。だが次の瞬間、その霊獣の眼がルイを睨み据える。
「敵意……?」
脳内に警告が響く。
《式神合体成功──新個体の魂、未調伏状態。即時戦闘開始》
「なるほど、合体した式神は調伏しなきゃ使えないってことか」
晴明がルイの背後に立ち、微笑んだ。
「だったら、試す価値はあるな。いくぞ、主!」
雷狐が吠え、空間を走る電光が二人を襲う。だがルイは手をかざし、陰陽陣を展開。一陣の風が吹き荒れる。
「式神《封魔鎖陣》、発動!」
瞬間、雷狐の動きが止まり、そこへ晴明が接近、五重式の封札を投げ込む。雷と妖気が弾け、戦場が光に包まれた。
──数十秒後。
静まった空間に、一体の式神が膝を折っていた。五尾雷狐・タマヨ。神話級の霊獣。
「……調伏、完了」
霊子の波がルイに流れ込み、新たな力が宿る。
(合体式神……これは、戦力が一段階跳ね上がる)
まだ深層は終わらない。次の転移の気配がすぐそこにあった。
「また転移か……今度はどこに飛ばされる?」
笑みを浮かべ、ルイは再び次元の狭間へと飛び込んでいった。式神たちと共に、さらなる深淵の戦いへ──