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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第一章 堕天の陰陽師、現世に顕現す ―The Fallen Onmyoji Rises―
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第三話「芦屋、我が式に火を灯す」 Ashiya Ignites the Flame of My Rite

 陽の国、安倍家の裏庭に、古びた木製の人形が並ぶ。

 それは幼子が学ぶにはあまりに厳しい、陰陽師の「修練の庭」であった。


「――今日から、お前の師を務める」


 そう言って屋敷を訪れたのは、芦屋宗惟あしや・そうい

 かつて安倍晴明と双璧をなした名家・芦屋家の血を引く、老齢の陰陽師だった。


 銀髪に漆黒の烏羽織、片目に古傷を刻んだ男は、一目見ただけで只者ではないと知れた。

 その背には古びた経巻と数百の札。眼差しは冷たく、しかしその奥には誇り高き職人の魂が灯っていた。


「我が教えは厳しいぞ。札の一枚で命を守り、祝詞一つで神を呼ぶ。舐めれば死ぬ」


 そう言いながらも、宗惟はまだ三歳になったばかりの流威の眼を見て、心の奥底で舌を巻いていた。

 その瞳の奥には、人の器に収まりきらぬ“光”が宿っていたからだ。



 宗惟の教えは、容赦がなかった。

 ・札の構造と呪文の因果関係

 ・神前で奏上する正式な祝詞の構文

 ・五行の相生相剋と結界形成術

 ・指印の組み方と“”の取り方


 これらを日々繰り返す中で、流威は呪式構成力に異常な才能を発揮する。


「……やはり“才”だけではないな。これは、前世の記憶が断片的に混ざっている……」


 宗惟は流威の作った札を見て震えた。三歳児が、独自に組み上げたその札は、

 現代の陰陽術では廃れた“逆紋・逆因式札ぎゃくもん・ぎゃくいんしきふだ”の構造だった。



 ある夜、流威は一つの陣を描く。

 五芒星を逆さに組み、中心に独自の印と祝詞を刻むことで、“術を跳ね返す”特異な防御結界を完成させた。


「これ……私が教えたものではない。いや、誰も教えられん」


 宗惟の眼が見開かれる。

 流威は術の名を、古き星の言葉でこう名付けた。


「星辰封陣・逆転五芒――すべての術理を逆転させ、禍を光に変える陣」



 その日、森の奥から黒煙と血の気配が立ち込めた。


「流威様、下がっておいで!」


 侍女たちが騒ぐ中、流威は一人、足を踏み出す。

 そこに現れたのは、かつて祓い損ねた亡霊が集まって成った忌獣、獄骸鬼――

 瘴気をまとう死霊の融合体、三つ首の巨鬼であった。


「これは……三柱の怨霊が結集し、自我を得たものか」


 宗惟の顔が険しくなる。だが、その時すでに流威は歩み出ていた。


「これは……俺がやる。初の実戦だろ?」


 流威の声は幼児のものとは思えない冷静さを帯びていた。


 獄骸鬼が咆哮し、空気が震えた。瘴気が木々を枯らし、地を腐らせる。

 だが流威は、揺るがない。


「水破の印――結べ、水界の理、流転にて穢れを流せ。破式・清浄水環せいじょうすいかん!」


 一枚の札が青く光り、獄骸鬼の瘴気を浄化し始める。

 だが三首が同時に吠え、陰火の弾が飛来。空間が灼けた。


 流威は即座に指を組む。


「星辰封陣・逆転五芒、展開!」


 光の五芒星が空間に浮かび、陰火を反射。瘴気ごと打ち返す。

 獄骸鬼がよろめいた隙を逃さず、流威は札を三枚投じた。


「神鎖の札――動くな。“縛封・連環天綱れんかんてんこう”!」


 空間から光の鎖が生まれ、三首を束ねる。だが、獄骸鬼は絶叫と共に拘束を破りかける。


「今だ……!」


 流威は最後の一手を放つ。


「三魂七魄、返魂の祈りよ、我が言霊に応えよ――“転禍為福・幽契調伏陣てんかいふく・ゆうけいちょうふくじん”!」


 足元に光の陣が広がり、三体の魂が浮かび上がる。

 流威は祝詞を紡ぎ、静かにその魂を抱いた。


「……お前たちは、苦しかったのだな」


 光が爆ぜ、闇が浄化される。獄骸鬼の巨体が崩れ落ち、中心に一つの結晶が残された。

 それは“調伏の証”。三魂は浄化され、式神として従う意思を示していた。


  戦闘後


 宗惟は静かに頭を下げた。


「流威様……あなたは、我々が思う以上に――いや、もはや人ではありませんな」


 流威は空を見上げ、静かに言った。


「俺が誰で、何のためにここにいるのか……まだわからない。

 でも、戦わなくちゃならない気がするんだ。上にいる、何かと」



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


本作は、「天才陰陽士が、天使の生まれ変わりだったら?」――

そんな、ある夜ふと頭に浮かんだ厨二病全開の妄想から始まりました。


神話、陰陽術、異世界、神界バトル、猫又、百鬼夜行、そして式神たち……。

自分の“好き”を余すところなく詰め込みながら、物語を紡いできました。

この先も、彼の戦いをどうか見届けていただけたら嬉しいです。


そして、もしこの作品を楽しんでいただけたなら――

評価・ブックマークをいただけると、筆者の大きな励みになります!


なお、他の作品も本作のスピンオフとなっており、

百目や神祖マザースライムといったキャラクターのストーリーも展開中です。

さらに、流威が“別作品のチートスキル”でサブキャラとして無双する異色作も連載しています。

試行錯誤の真っ最中ではありますが、ぜひ応援していただけると幸いです。


それでは、また次の物語でお会いしましょう。ありがとうございました!


――筆者より

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