第三十五話「変異迷宮・連携の極地」 The Mutated Labyrinth: Pinnacle of Coordination
——翠風の迷宮・第六層。
空気が澱み、魔力が歪んでいた。
壁面の苔は黒く染まり、風は凍てついたように淀んでいる。
「通常のダンジョンじゃない……変異してる」
ルイの感知魔法に応じるように、突如、無数の気配が迫った。
「囲まれる!サリア、後方に結界!メリナ、援護を!」
押し寄せてきたのは変異スケルトンウルフの群れ。
目が赤黒く光り、動きも通常より俊敏。
ゼクスが盾で突撃を受け止め、その背後をランスがカバー。
「《雷光斬》!」
一直線に駆け抜け、三体の胴体を両断。
ルイは風精霊を大量に展開し、後衛に群がる敵を押し戻す。
「《風陣刃》!」
風の刃が半月状に広がり、十体以上を一掃。
サリアの結界が崩れた一瞬を狙い、ウルフの爪が迫るが——
「《重圧障壁》!」
ゼクスの防壁が間一髪で防ぎ、その間にメリナの雷矢が敵を貫いた。
「……一体だけじゃない。繋がってる!」
群れの中から融合して出現したのは変異合成体。
三つ首、六脚。黒い瘴気を纏い、咆哮で風を乱す。
「ここは連携で一気にいくぞ!」
サリアの回復・支援が全員に拡散し、速度と反応が上昇。
ランスが正面から斬撃で惹きつけ、ゼクスが左脚を押さえ込む。
「今よ、メリナ!」
「雷光、集束——《収束雷槍》!」
放たれた矢はルイの風魔法に包まれて加速し、
三つ首の中央を貫いた。リーパーは断末魔の遠吠えをあげて崩れる。
「やったか……?」
だが、背後の空間が歪んだ。
空間を割って現れたのは、風魔力を喰い荒らした獣。
翼は折れ、目は腐り、しかしその身に風の理を捻じ曲げた異形の力を宿す。
「全員、構えろ!」
ルイが一歩前に出た瞬間、咆哮とともに黒風が炸裂。
魔力障壁を貫通し、ゼクスが吹き飛ばされる。
「ぐ……ッ!」
サリアの回復魔法が追いつかず、ランスも片膝をつく。
敵の魔力がさらに膨れあがり、周囲の精霊が泣き叫ぶように消えていく。
——絶望の風。
「……これは、天使の力を使うしかないな」
ルイの額に、光の紋章が浮かび上がった。
【前世スキル《天使解放・聖刻封陣》】
風が止まり、静寂が訪れる。
背中に光翼が顕現し、全身が神々しい光に包まれた。
「これは俺の過去から借りた力——受けてみろ」
天使文字が空間に展開され、ルイの両手に風と光の刃が宿る。
周囲の仲間のアクセサリーも共鳴し、魔力がルイに集中していく。
「いっけぇえええええ!!」
——《聖刻封陣・六連刃舞》!
六連撃が一瞬で炸裂。時間すら止まったような連撃がヴァルザイを刻み、
最後の一閃で魔獣のコアを断ち切る。
光が収まり、変異ボスは消滅した。
「勝った……!」
息を切らしながら、皆が笑った。
——ダンジョンアクセサリーが全員、Bランク以上へ進化した。
その夜。
ルイの背中には、まだかすかに光の翼が残っていた。
「……あの力、これからも使えるのか?」
彼自身もまだ知らない。
天使の力の真価は、これから少しずつ明かされていく。




