第三十一話 「伝説のはじまり 双子ハイエルフ幼年譚」 The Beginning of a Legend: The Tale of Twin High Elves in Their Childhood
エルフ国歴812年。
ハイエルフの双子、ルイとランスの誕生は、王都セリュエル全土に衝撃を与えた。
「……この子たち、精霊が……精霊たちが騒いでる……!」
誕生の瞬間、王城の周囲に突如として現れた数百もの精霊が祝福の歌を奏で、王都上空に巨大な光の樹を形成した。伝承によれば、これほどの現象は神話時代を含めても前例がない。
1歳になる頃、双子の才能は早くも現れ始める。
ルイが泣けば雨雲が集まり、笑えば花が咲き誇った。精霊たちは彼の周囲を漂い、野鳥や小動物までもが警戒心を捨てて集まってくる。
ランスは剣の才に目覚め、王宮の兵士たちを模倣して木の枝を振るだけで、風を裂く音が鳴った。
3歳のとき、庭に遊びに来た野生のユニコーンが双子に膝を折り、従属の誓いを立てる。国王は驚愕し、王族評議会は「この双子の育成は国家の最優先事項」として極秘の護衛部隊を設ける。
4歳、ルイは森に迷い込んだ子狼を助け、手のひら一つで傷を癒す。以来、その子狼は王城の警護犬としてルイのそばを離れず、「神狼フェル」と呼ばれるようになった。
5歳の誕生日、精霊たちが城の空に「光の冠」を描き、双子に祝福を捧げる。この日、王宮は公式に「双子は世界の運命に関わる存在」と認定し、隠密裏に『予言の書』の封印が解かれる。
世界はまだ、この双子がもたらす奇跡の序章に過ぎないことを知らなかった。