第二十九話「転生の鼓動」 The Pulse of Reincarnation
空は鈍い灰色に染まり、空間には死神の圧力が満ちていた。わずかな抵抗を試みたランスロットは、折れた剣を手に突撃する。
「流威を殺させはしないッ!」
死神の鎌が振り下ろされる瞬間、ランスロットは身を挺してその一撃を受けた。血飛沫が舞い、彼の身体は斬られ、砕け、崩れ落ちた。
「――ランスロット……!」
叫んだ流威の背にも、次の瞬間には鎌の影が落ちていた。晴明も、九尾も、式神たちも消えた今、彼を守るものは何もない。
「……ここまでか……」
静かに目を閉じた流威に、死神の鎌が突き立つ。
――世界が、音をなくした。
だが、魂が完全に消え去るその刹那――柔らかな鈴の音のような、不思議な旋律が二人の意識を包んだ。
「よくやった。とても、よくがんばったよ。」
目を開けると、そこはどこでもない場所。青と金が交錯する神域のような空間の中、太鼓腹に象の頭を持つ神が微笑んでいた。
「僕の名はガネーシャ。天界の神であり、創造の門番でもある。」
「……死んだのか、俺たち。」
「うん。でも、ただ死ぬのも勿体ないでしょう? 君たちは面白い。特に君――安倍流威。君の魂は珍しい構造をしている。堕天の気配も、陰陽の揺らぎも、すべてが整合性を持って動いている。これは……“逸品”だね。」
流威とランスロットは戸惑いつつも、神の言葉を静かに聞いた。
「だから提案がある。僕の運営する世界に行かない? 剣と魔法、獣人や竜人、エルフも人間も共存するファンタジー世界。君たちなら、きっとその世界をもっと面白くできるよ。」
「……それは、転生ってことか?」
「そう。しかも今回は、特別に“ボーナス”付き。君にはこの三つを授けよう。」
ガネーシャが手をかざすと、光のパネルが浮かび上がった。
ステータス鑑定
前世の能力完全解放(陰陽術、堕天使の力、式神召喚)
超高性能テイム能力(ガネーシャの加護)
「そして君、ランスロットには“神聖属性完全操作”と“自己再生能力”。これで、多少の死なら何度でも蘇れる。」
「……これってチートってやつじゃないか?」
「うん、そう。だって君たち、死ぬほど頑張ったじゃない。」
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
「で、どんな姿になるんだ?」
「君たちは、エルフ国において生まれたばかりの“ハイエルフの双子”として転生するよ。もちろん、記憶もそのまま。しばらくは赤ん坊だけどね。」
最後にガネーシャがウインクする。
「新しい世界での活躍、楽しみにしてるよ。“流威”……いや、“ルイ”と“ランス”。」
光に包まれながら、二人の魂は新たな世界へと向かっていく。
――これが、第二の冒険の幕開けだった。