第二十八話「冥府の裁き」 Judgment of the Underworld
闇が落ちたかのような重苦しい気配が、京都の空を覆った。突如として現れた死神は、喪服のように黒い外套をまとい、目の奥には永劫の死の静けさが宿っていた。その視線が安倍流威に向けられた瞬間、空気が裂け、地面が軋んだ。
「……寿命を歪めし者よ。その命、返上してもらう。」
ただの言葉。しかし、それは宣告だった。無慈悲な運命の執行者――死神の口から紡がれたそれは、術すら打ち消す絶対の呪詛。
先に動いたのは晴明・九尾。融合によって大幅に力を増した彼が炎の尾を広げ、死神に突撃する。しかしその炎が死神の鎌に触れた瞬間、まるで霧のように霊力が消し飛んだ。
「霊的な力は、死を前に意味を成さぬ。」
その一言と同時に鎌が振り下ろされ、九尾・晴明の身体は空を裂きながら吹き飛ぶ。直後に茨木童子が音速の斬撃で割って入るが、鎌の反動を受け、地面に叩きつけられ地割れを起こす。百目のレーザーが死神を狙うが、鎌を一閃するだけで屈折し、斜めに逸れた光が空に消えた。
「見てろよ……!」
流威が叫び、今までにない規模の式神を一挙に召喚する。四尾の狐火、酒呑童子の狂乱、カラカッサと一反木綿までもが参戦し、全方向から死神へ猛攻を加える。
それでも――圧倒的だった。
酒呑童子の四本の腕が一斉に振るわれても、死神は一歩も動かずその全てを鎌で裁いた。一反木綿が空から縛りつけにかかるも、その鎌が空を割ると共に、次の瞬間には裂け目から奈落の手が這い出し、布の身体を引きちぎる。
流威は死神の動きを読みながら霊式を組もうとするが、術式そのものが完成する前に鎌の気配が届く。身を守るために百目を盾にし、辛くも回避するが、代わりに百目の上半身が吹き飛び、破壊される。
「ッ、霊式、発動ッ!」
最後の望みを託し、流威は切り札の一つ――魂を削って発動する式術を強行発動する。場に巨大な封印陣が展開され、死神の動きを一瞬だけ止めることに成功する。
その瞬間、晴明が復活させた九尾の霊炎が渦を巻き、死神を包み込もうとする。しかし、死神の鎌が軽く動いた。それだけで霊炎は逆巻く風にかき消され、次に振るわれた鎌の一撃は、晴明の身体を真っ二つにした。
「まだ、だ……!」
流威は立ち上がり、両手を血で染めながら再び式を組む。ランスロットが横から援護に入るが、死神の気配を受けた瞬間、ガブリエルの憑依が一時解除され、ランスロットの動きが鈍る。
死神が語る。
「死は等しく訪れる。お前のように死を弄ぶ者には、その報いを。」
そして――死神が流威に向かって歩き出す。
全員が動けない。死神の気配が空間を圧迫し、言葉も術も通じぬ“絶対”がただ迫ってくる。
「来るな……まだ、終わってないんだ……!」
流威は震える手で最後の式を描く。背後で砕けた式神たちの破片が風に舞い、彼の霊力と混ざり合い一つの陣を形成する。
「晴明……力を貸せ……!」
魂が共鳴する。九尾と融合した晴明の魂が、最後の力を振り絞り流威の式に応える。空に巨大な狐火の紋が描かれ――しかしそれが放たれる前に、死神の鎌が動いた。
その光すら斬り裂いた。
全てが無に帰す。
そして幕は、落ちた。




