第二十七話「死神、降臨す」 The Reaper Descends
灰色の空が、不吉に鳴った。
空間が裂け、そこから滲み出るのは"死"の概念そのもの。冷気でも熱気でもない、ただ確実な終わりの気配。
その中心に、黒衣を纏った存在が立っていた。顔は影に覆われ、瞳だけが白く発光している。
それは“死神”――冥府に仕え、魂の秩序を護る最古の存在。
「貴様が……安倍流威、か」
その声は重く、全ての音を押し黙らせるほどに強い。
ただの名乗りではなかった。告げるそれは、裁きの宣告。
「我が王、冥府の支配者ハデスの腕を裂いた罪。
そしてもう一つ……“切り裂きジャッキー”を式神にした罪。」
死神の言葉に、流威の眉がわずかに動く。
その罪状に、覚えがないわけではない――だが、それがここまで死神の逆鱗に触れているとは、想定外だった。
「奴は、私が輪廻に戻った後、魂の拷問に処すべく“予約”していたのだ。
貴様がそれを式神とし、輪廻から外した行為は……死神への明確な侮辱に他ならぬ!」
死神の怒気が爆発する。天地が揺れ、周囲の空間が黒く染まり始める。
その足元に触れた草木は枯れ、土は灰へと変わった。まるで世界が死に染まり始めているようだった。
流威は静かに構える。
確かに――自分の選択は、常識からすれば異端だ。
だが、常識で語れない力があったからこそ、今まで守ってきたものがある。
式神とは、命の枠を超えて共に在る存在。輪廻の外に置いたのは、救いであり、希望だったはずだ。
「俺の選んだ道に後悔はない。
たとえ、冥府の刃に狙われようと――式神たちと共に、貴様を退けてみせる」
死神が無言で、鎌を構える。その刃に触れれば、魂すら断たれる。
ここに、理と異端の衝突が始まろうとしていた。