第二十五話「日常の裏に潜む霊気」 The Spiritual Aura Hidden Beneath the Everyday
戦いの嵐が過ぎ去り、束の間の平穏が訪れた。安倍流威は式神たちの疲弊を癒しながら、自らの陰陽術の道具――形代と札の補充と作製作業に取り掛かっていた。
「この和紙の質……悪くない。けど霊力の通りが少し鈍いな」
古道具屋の店主が恐縮した顔で頭を下げる。流威は軽く手を振り、笑みを浮かべた。
「いや、素材としては十分。霊紋の彫り方次第でいくらでも補える」
一通りの買い物を終えると、屋敷の式神たちの訓練場に戻った。阿吽は基礎的な結界展開術を百目に教え、酒呑童子と茨木童子は模擬戦を繰り広げている。四尾は器用に尾を使って空中を旋回しながら、光の矢を射出する訓練に励んでいた。
「カラカッサ、こっち!」
一声とともに、傘がひとりでに跳ね上がった。流威が長年使っていた古い番傘が、強い霊力に触れたことで付喪神――カラカッサとして目覚めたのだ。
「お、おいどすえ!あたいは雨の日の守り神、これからはちゃんと戦うえ!」
しゃべる傘に、阿吽が肩を震わせて笑う。
「また変なのが増えたな」
さらに、風呂場から奇妙な霊気が漏れ出していた。バスタオルが宙を舞い、柔らかな布地がひらりと翻る。
「なんだこの気配……まさか!」
ぬらりと現れたのは、一反木綿。かつて流威が毎日使っていたバスタオルが、霊気を吸収し目覚めた付喪神だった。
「ふふ、湯上がりはわしに任せとき」
流威は呆れたように眉をひそめながらも、その存在を否定しなかった。
「……まあ、守護の範囲が広がったと思えばいいか」
一風変わった日常の中で、式神たちはそれぞれの役割を見出していく。戦いの最中に生まれた縁と、静けさのなかで芽生えた力。流威の周囲には今日も、確かな“異”が積み重なっていくのだった。




