第二十四話「変転の果てに」 At the End of Upheaval
百鬼夜行による壮絶な蹂躙の末、京都を覆っていたゾンビの群れは霧が晴れるように消えていった。晴明の死と引き換えに成された式神たちの咆哮が、夜の都を貫いた。
しかし、その晴明は——死してなお、意識を保っていた。
「……身体がない。だが、思考ははっきりしている」
霊体として空間を漂う晴明は、自らの式神に命を宿すことができなくなっていた。それを知った流威は思案の末、ひとつの策を打つ。狗肉の策——それは敵だった九尾の力を用いて、晴明をこの世に繋ぎ止めるという異端の選択だった。
殺生石へと向かう流威と晴明の霊体。そこにはまだ、九尾の残留思念が宿っていた。
「貴様の力、我に貸してもらおう。無論、代償は払う」
静かな殺生石の前、晴明はかつての敵と交渉を始める。互いに異なる死を超えた存在となった者同士、会話は短く済まされた。
——融合。
光が弾け、炎が渦巻く。九尾と融合した晴明は、肉体を得て若き青年の姿へと転生する。その背には九つの尾がふわりと揺れ、かつての威厳と妖艶さを宿していた。
「……これが、俺の新たなかたちか」
そして彼は、安倍流威の新たな式神となった。
——九尾の晴明。
一方、大白老は報酬として、九尾の力の残滓が宿る《殺生石》を手に入れ、静かにその場を去った。
「この石は、また災いを招く……だが、使いようだ」
そして、ニコライとランスロット。奇妙な縁で交錯した二人の西洋の異端者たちは、静かに別れの言葉を交わした。
「また、縁があればな」
「神が望まれるならば、きっとな」
京都の夜は、ようやく静寂を取り戻しつつあった。
——しかし、それは終焉ではない。
これは、さらなる夜の序章にすぎなかった。




