第二十三話「最後の百鬼夜行」 The Final Night Parade of One Hundred Demons
京都の夜空を裂くように、百鬼夜行が始まった。
晴明が命を賭して遺した式神たちは、その意志に呼応し、死してなお動く。
彼の力を源とする古の式神たちが、京の地に眠る物怪たちを呼び覚まし、闇の中から無数の影が姿を現す。
それはまさしく、千年に一度の規模を誇る“真の百鬼夜行”だった。
標的はただ一つ。受肉した悪魔、アスモデウス。
その存在は、京都全体に死の気配を振りまいていた。
常人なら目にするだけで気絶しかねないその魔圧に、すでに死んでいる芦屋でさえも冷や汗を感じるという異常。
だが、立ち向かう者たちは退かない。
ランスロットには天使ガブリエルが憑依していた。
天界の力を宿した彼は、自らの命を削りながらも、天罰の光“グランドクロス”を連射する。
天と地を繋ぐ十字の閃光が、アスモデウスを押し戻していく。
そして、安倍流威。
これまで、自らの膨大な霊力を式神に最低限しか譲渡していなかった彼が、ついに霊力制限を解いた。
「──解放だ。全力でいけ。」
その瞬間、式神たちは覚醒する。
酒呑童子は背中から新たな腕を生やし、雷鳴のような咆哮と共に突撃する。
茨木童子は“音速の居合い”を会得し、目にも止まらぬ速さでアスモデウスの身体を裂く。
百目の魔眼から放たれるレーザーは桁違いの出力となり、闇を白光で貫く。
そして、四尾の金色の尾が、神性すら帯びて煌めく。
だがアスモデウスもまた、完全なる大悪魔。
その肉体は切られても再生し、吹き飛ばされてもなお笑みを浮かべ続ける。
圧倒的な戦闘力と、不死性に近い存在。それが“七罪の魔王”の一柱だった。
流威は、あえてアスモデウスの内部に霊視を重ねた。
その魂に、微細だが歪んだ“揺らぎ”を感じ取ったのだ。
「……いたな。まだ、食い尽くせていない魂がある。」
それは、切り裂きジャッキーの怨霊だった。
召喚の触媒となった彼の魂が、アスモデウスの中に飲まれながらも、完全には消化されていなかったのだ。
流威は式を展開し、その魂を切り離す。
「お前もまだ終わってない。式神になれ。」
怨念の塊だったジャッキーの魂が、禍々しい鎌のような存在として現れ、式神として契約される。
そしてその瞬間、ジャッキーはアスモデウスの本体を切り裂くためだけの“呪いの刃”となる。
アスモデウスは悲鳴を上げた。
自身の魂を切り裂かれたその衝撃により、再生能力が途切れ、動きに乱れが生じる。
そこへ百鬼夜行の全霊力が、一点に集中した。
流威が最後の式を展開する。
「──式神契約、完成。アスモデウス、我が配下となれ。」
無数の式神たちがその言葉に霊力を重ね、封印術式が完成する。
抵抗を続けていたアスモデウスの力が急激に沈静化し、空間そのものが静寂に包まれた。
──沈黙。
次の瞬間、流威の背後に黒翼を纏った人影が立っていた。
その正体は、式神化されたアスモデウス。
かつて世界を恐怖に陥れた大悪魔は、今や安倍流威の忠実なる従者の一人となったのだった。




