第十八話「聖戦の火蓋」 - The Opening of the Holy War
――カトリックとは、祈りと聖句、聖典と祝詞によって悪魔を祓う者たち。信仰の深さこそが力の源であり、言霊の律によって地獄の瘴気を穿つ神の剣。
――プロテスタントとは、信仰を行動に変える者たち。聖遺物という神の加護を宿す品々を携え、物理で悪を殲滅する実践主義の集団。
この二つの異なる聖の系譜が、日本の地、霊の都・京都にて、想定外の形で交差する。
きっかけは、一滴の水だった。
水道水に混入されたゾンビパウダー――異教の秘術にして、魂を腐らせ肉体を操る穢れの結晶。それが京都全域に拡散された。最初に異変に気づいたのは、プロテスタント騎士団の一人、ランスロット。偶然にも外交任務で来日していた彼は、駅前で突如暴れ出した死者の群れを前に、銀の十字槍を抜いた。
「……ここも、戦場か」
彼の背に靡く赤い騎士マント。その胸には、数多の聖遺物が仕込まれたアーマー。戦場を歩む聖戦士は、ゾンビたちを軽やかに、そして確実に貫いた。
一方で、カトリックの陰の使徒、ニコライ神父が日本に潜入していた。その目的は、京都に隠されたとされる邪悪なる聖遺物――切り裂きジャッキーの短剣。
「これは……実に素晴らしい地だ。悪魔の匂いが濃い。血と嘆きが満ちている」
ニコライは神父でありながら、異常なまでに悪魔の存在に執着していた。祓い、そして飲む。その血を体に取り込み、自らの力とする背徳の祈祷者。
悪魔を狩ることでしか己の生を保てない男。だが彼の行動は、結果的に京都を地獄へと変えていく。
ゾンビパウダーの拡散は急速に進行した。市街地では人々が突如として倒れ、次の瞬間には白濁した目で起き上がる。京の街は、死者と狂気に包まれた。
それを察知した安倍流威は、すぐに動いた。
「これは……呪いではない。穢れそのものだ」
流威は既に一度、芦屋の一件でゾンビパウダーの実例を経験していた。その知識を活かし、芦屋式の霊符と、レンレンから学んだ浄化術式を重ね合わせた新たな呪符を作成。各地に貼り巡らせ、穢れの伝播を食い止める。
晴明とレンレンも加わり、京都を巨大な術式陣に変換していく。
だが、その裏で動く影――ニコライ神父は切り裂きジャッキーの短剣を手に入れ、その力で自らの霊力を爆発的に高めていた。
「悪魔よ……もっとだ。もっと力を寄越せ。私はその血で、天を穿つ者となる!」
対するランスロットも黙ってはいなかった。
「貴様……神を騙る化け物。聖遺物を穢すなど、言語道断!」
京都の空の下、カトリックとプロテスタント、聖の名を冠する者たちの衝突が始まろうとしていた。
そして、その全ての中心に安倍流威はいた。星の導き、千年に一度の転生者。彼の決断が、この地に再び夜明けをもたらす鍵となる。