表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第一章 堕天の陰陽師、現世に顕現す ―The Fallen Onmyoji Rises―
18/177

第十七話 「黄泉還りの呪法――ゾンビパウダーと異教の神」 The Curse of Returning from Yomi — Zombie Powder and the Pagan God

 それは突如として訪れた。安倍家の東に位置する芦屋家本邸。その空に黒き霧が覆い、赤黒い雷鳴が天を裂いた。


「これは……結界が破られた?」


 安倍流威が霊視によって異常を察知したのは、その異変からわずか数分後だった。

 禍々しい霊力の波が京都全体にまで伝播し、結界師たちの符が焼き切れ、霊獣たちは怯えて鳴いた。


 その正体は、かつて異端として歴史の裏側に追いやられた異教の秘術ゾンビパウダー


 それは死者の魂を強制的に封じ、死体に再定着させる禁呪。その者の意思を奪い、肉体だけを殺戮兵器として蘇らせる。

 霊力を持つ者ほど呪術耐性が低く、芦屋家の陰陽師たちは逆に術の媒介とされ、次々と同胞を喰らいながらゾンビと化していった。


 黒衣の異教徒が、壊滅した芦屋家の正門前で笑っていた。


「霊なる力よ、血となり肉となりて……我らが神の祭壇とならん」


 まるで儀式のように、その場に積み重なった肉と骨を媒介にして、新たな呪術が展開される。魂を喰らい、呪力を積み重ねていく邪なる術式。


 その中心に、半ばゾンビと化した芦屋玄道が立ち尽くしていた。


 目は虚ろで、血の涙を流しながらも、その指は確実に印を結び、死者の術を起動しようとしていた。


「玄道様……!」


 駆けつけた流威が見たのは、焼け落ちた屋敷と、かつての盟友が人ではない何かへと堕ちていく姿だった。


 その瞬間、三尾の子狐――かつて九尾から救い出された霊獣が、流威の肩に跳び乗った。


「……まだ、間に合う!」


 四本目の尾が光を放ち、霊獣が空に舞う。流威は札を数十枚取り出し、空中に巨大な封印陣を描いた。

 霊力を込めた術式が、芦屋玄道の魂に届く。だがそれは通常の封印ではない。


「魂の浄化……そして、霊式再構築……《蘇煌魂結・符神転生》!」


 光の柱が芦屋玄道を包み、その肉体は崩れ落ち、魂だけが残された。

 流威はその魂に、自らの霊力とレンレンのキョンシー術式を組み合わせた“霊符”を焼きつける。


 呪術と陰陽術の融合、異端と王道の邂逅。


「……戻ったのか、俺は……? いや、今の俺は……式神か?」


 目を覚ました芦屋玄道は、己の腕を見て呟く。皮膚は死人のように蒼白で、だが魂だけは光を宿していた。


「そうだ。でも、君はまだ戦える。これからは、僕の式神として共に戦おう」


 流威はそう言って、再び札を掲げる。キョンシーと化した芦屋は、静かに頷いた。


「……ゾンビよりは、ずっとマシだな」


 異教の使徒たちは敗走した。だが、これはほんの序章に過ぎなかった。


 世界中で“物怪を神と崇める”教団が活動を活発化させていた。今回の襲撃は、その一端に過ぎず、陰陽道にとっての“新たな時代”の始まりだった。


 安倍家。安倍流威。その霊力と技術は、今や神をも討てる領域に至りつつある。

 その力に魅せられ、また恐れ、世界中の異教と秘密結社、霊的機関までもが、静かに動き出す。


 彼にとっての“真の戦い”は、まだ幕を開けたばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ