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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第六章 四国同盟、闇洞突破戦 — Shikoku Alliance: Dark Hollow Breakthrough
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第百六十九話「咆哮の檻」Roar in the Cage

「――来やがったな、地獄の番犬め」


 アシュラの低く唸るような声が、震える空気を裂いた。


 四十四階層、中央部。

 迷宮の“無限湧き”に誘われ、**ケルベロス**――冥界の三頭犬が階段を駆け上がってきた。地を蹴るたび、床が軋み、壁が唸る。焦げた魔力と黒煙が空間を染める。


 三つの咆哮が同時に響いた瞬間、空気そのものが怒声に共鳴し、周囲の精霊たちの結界が軋んだ。


「ナナシ! 開幕全力でいくぞ! 様子見なんてしてるヒマはねぇ!」


「……あァ。分かってる」


 ナナシは短く応え、すでにサラマンダーの力を内に取り込んでいた。

 その右腕が赤熱し、まるで熔鉄のように脈動している。


 次の瞬間、二人はほぼ同時に地を蹴った。


 ---


 **激突――始まる。**


 アシュラの拳が、半身を捻ることで加速を乗せる。

 腰、肩、拳――三点が一直線に揃った瞬間、まるで弾丸のようにケルベロスの首元に突き刺さる!


「――オラァァアッ!!」


 一頭目の顔面が揺れ、黒い牙が吹き飛ぶ。

 だが、すぐさま二頭目が横合いから噛みついてくる。


「甘ぇんだよ、バカ犬が!」


 アシュラは足を踏み込み、肘を逆側へ折り返す。咄嗟に入れた肘打ちが顎を跳ね上げ、ケルベロスの頭部をひるませる。


 そこへ――


「――よっ」


 ナナシが姿勢を低く保ったまま、滑るように入り込む。

 一瞬、影がぶれた。

 そして次の瞬間、ナナシの踵が**地を滑るように回転蹴り**となってケルベロスの足を刈り取った!


「どけや、燃やすぞ……ッ」


 伏せたケルベロスに向けて、ナナシは爆ぜるような火球をぶっ放つ。

 炎に包まれる一頭――だが、三つの頭はそれぞれが独立した魔力核を持つ。


 燃えながらも、別の頭が吠える!


 **バフ魔力展開――《魔気強化》**

 三頭それぞれが自己強化を始め、攻撃の鋭さが倍加。


「くそッ……! **デバフ精霊、フォローしろ!**」


 融合した精霊の知性体が、即座に対応する。

 数体の小型精霊が霧のように漂い、ケルベロスに絡みつく――


 《敏捷低下》《視界妨害》《再生阻害》。


 が、**ケルベロスの咆哮一発で**霧精霊が砕け散る!


「チッ……なら、数で押す!」


 アシュラが手を広げると、周囲のモンスターたち――迷宮で手懐けた獣たちと、精霊融合体たちが一斉に突撃!


 バフの掛け合い、属性干渉、魔法が交差する。


 氷の斬撃がケルベロスの脚を貫き、雷が咆哮を消し、毒の棘が皮膚を侵す。

 だが、一撃ごとに魔力の炎で再生される――


「――全然効いてねぇ!」


 アシュラが拳を引く。重心を深く落とし、膝を使って加速を作る。


「効かねぇなら……ぶっ壊すだけだッ!!」


 踏み込みから、拳が**螺旋を描いて炸裂**する。

 ケルベロスの頭がのけぞり、地面にめり込む。


 一瞬の静寂――


 だがその刹那、ケルベロスが魔力を噴出し、周囲のモンスターを吹き飛ばす。


 **撤退行動。**


「逃げる気か……ッ!!」


 地面を砕きながら、ケルベロスは階段へと駆け出した。


 ナナシが咄嗟に追おうとしたが――膝が揺れる。

 炎精霊との融合で体温が上がり過ぎ、筋肉が悲鳴を上げていた。


「っ……アシュラ、頼む」


「任せとけ……逃亡は許さねぇ」


 アシュラの体が**蒸気のような気を噴き出しながら加速**する。

 空気を切り裂き、ケルベロスの背後に到達。


「地獄の番犬が、どこ行こうってんだよ……!」


 一歩、二歩。深く踏み込み、腰を捻り、

 膝のバネを全開にして――**渾身の裏拳**が、ケルベロスの脳天を撃ち抜いた。


 **ゴギャアッ――!!**


 三つの頭が同時に悲鳴を上げ、崩れ落ちる。


「……お帰りなすって」


 アシュラが吐き捨てるように言った。


 沈黙。血のように黒い魔力の霧が、ゆっくりと階層を漂う。


 融合した精霊たちが、静かに一礼した。


 **勝利――しかし、戦は終わらぬ。**


 下の階層では、まだ“本隊”が待っている。

 ケルベロスは“前座”に過ぎなかった。


「さぁて……次はどんな地獄が来るかねぇ」


 アシュラの背に、再び蒸気のような気が立ち昇った。

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