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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第六章 四国同盟、闇洞突破戦 — Shikoku Alliance: Dark Hollow Breakthrough
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第百五十九話「孤高の風眼、単騎突破」Lone Wind Eye, Solo Breakthrough

 「精霊から“試練”を与えられた。──次の階層、単独で突破する」


 ランスの言葉に、仲間たちは静かに頷いた。

 誰も反対はしなかった。言葉はなくとも、信頼がそこにあった。


 ここは《翠風の迷宮》──四十三階層、精霊の気配が満ちる神秘の領域。

 この下、四十四階に眠る《風眼ノ間》。

 それは“資格なき者”を弾くための、精霊との契約を許すための、孤独な試練。


 仲間はそこで待つ。

 彼は一人、扉の向こうへと足を踏み出した。


 ──重い扉が、静かに閉まる。


 空気が変わった。

 魔力が渦巻く。

 世界がひとつ、狭くなる。


 視界の中心、ただひとつの存在が立っていた。


 人の形をした、黒衣の存在。

 中空にただ佇むその姿から、圧倒的な殺気が放たれていた。


(あれが、試練の……)


 そう考える暇もなかった。


 ──視界が揺れた。


 直後、鈍い音が床に響く。何かが地面に落ちた。


 ……自分の左腕だった。


(……は?)


 思考が追いつくよりも早く、熱が走る。

 肉が裂けた感覚。視界が赤く染まる。


 ランスは右手の剣を構え、反射的に飛び退いた。

 剣戟の予兆もなかった。ただ、失われていた。


 敵が歩み出る。

 静かに、滑るように、まるで風そのもののように。


 ──一合目。

 受ける。右手のみでは支えきれず、肩に痛みが走る。


 ──二合目。

 回避。袈裟に振り下ろされる斬撃を、地を転がって交わす。


 ──三合目。

 踏み込み、剣を突き上げた。

 その鋭さに、敵の頬がわずかに裂けた。


「通った……!」


 それは確信に変わる。

 完全ではない。けれど、届く。

 たとえ片腕でも、望む場所に刃は伸びる。


 敵の目が細まった。

 次の瞬間、五つの連撃が嵐のように襲いかかる。


 ──全てを避けきれない。

 ──すべてを受け止める余力もない。


 一撃を受け、一撃を流し、一撃を踏み越えて──

 ランスは滑るように相手の懐へ飛び込んだ。


「はあああっ!!」


 気合とともに振り抜いた一撃が、敵の右肩を裂く。

 一歩、二歩と後退。

 沈黙の中、敵が初めてこちらを“戦士”として見たようだった。


(ここが正念場──!)


 剣を逆手に持ち替え、足を構える。

 敵の刃が閃き、交差の瞬間──


 ──彼の動きが、風を裂いた。


 ランスの剣が、敵の刃を逸らし、その胸元に届いた。

 斬撃は浅くとも、確実な痛覚を伝える。


 空気が爆ぜる。敵が後退。

 数歩ぶん空間が開いた。


 ……この一瞬が、生き延びた証だった。


 肩で息をする。失った左腕がうずく。

 出血は止まらない。

 意識も、感覚も、薄れていく。


 けれど──


「まだ、終われるかよ」


 あの日、ルイに言われた言葉がある。

「人の身で神に挑むのなら、まずは“自分を超えろ”」と。


 これは、その第一歩。


 ランスは血を拭い、剣を構えた。

 そして、再び前へ──

 己の限界を、斬り裂くために。

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