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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第一章 堕天の陰陽師、現世に顕現す ―The Fallen Onmyoji Rises―
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第十五話「胎動せし九尾の残火」 The Stirring Ember of the Nine-Tails

 戦場の中心。九尾の気配が、突如として凶暴に、禍々しく変貌する。

 霊力が暴風となって周囲を刈り取り、空間が軋む。


「出るぞ――“魂呑の大蛇尾こんどんのたいじゃび”」

 茨木童子が呻くように言った。

 酒呑童子が不気味に笑いながら続ける。

「喰らった魂を蛇の尾へ転化して放つ、因果逆転の呪技。喰らえば魂ごと破壊されるぜ?」


 流威は静かに懐から札を取り出す。

(来い……その瞬間を待っていた)


 九尾の全九尾が宙に展開され、空間が波打つ。

 凶悪な咆哮が響いた次の瞬間――


「『魂呑・大蛇尾――発動』!!」

 漆黒の尾が巨大な蛇へと変じ、空間ごと喰らわんと突き進む!


「さあ、術式、反転起動――」

 流威が構えていた札を指先で滑らせる。


『五行転写・反転封魂符』!!


 放たれた九尾の奥義は、空中で符と交差した瞬間、反転し、光の刃となってそのまま自身へ跳ね返った。


「な、ば、馬鹿なっ……!」

 己の術が、魂を削る呪技が、自分自身を貫いていく。


 ズシャァァッ!!!


 地響きのような悲鳴と共に、九尾の尾が断ち切られ、巨大な身体が崩れ落ちる。


 血を吐きながら、それでも九尾は睨み返した。

「……調伏、など……されるかよ……」

 苦しげに吠えるその瞳に、流威はわずかな憐憫を覚える。


「……そうか、ならば“封ずる”」


 晴明と芦屋が周囲に結界を展開。

「四方結界・地脈鎮魂陣、展開完了!」

「殺生石、起動位置へ!」


「……安倍流威、封印式、始める!」


 霊力が大地へ流れ、巨大な石柱――殺生石が顕現する。

 流威がその手を九尾の額へ当てると、断末魔と共に九尾の身体は光に包まれ、石の中へと吸い込まれていった。


 だが――そのとき。


 流威の表情が曇る。

「……中に、もうひとつ……命?」


 術式で腹部を探る。そこには、微弱ながらも確かに鼓動する存在。


「……これが、“暴走の理由”だったのか」


 静かに手を重ね、術式を組み上げる。

「命よ、受肉せよ――『転生胎動・霊核顕現術』」


 霊力が光へと変わり、九尾の腹部から、小さな三尾の子狐が浮かび上がる。


「……君は、何も悪くない」


 ふわりと着地した子狐は、流威のもとへ寄り添う。

 その身に流威の霊力が流れ込み、式神としての契約が自然に成立する。


『新たなる式神・三尾の仔“焔玉えんぎょく”』、契約完了。


 戦いは終わった。だが、何かが始まりを告げていた。


 ――闇の奥で、別の存在が静かに目を覚まそうとしていた。

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