第十四話「封焔螺旋陣」 The Sealed Flame Spiral Formation
「――来るぞ、レンレン。全力で放て!」
芦屋が叫ぶと、レンレンの指が空を裂いた。
「天地玄武、五行輪廻、龍脈巡りて我が掌に集え――『破邪転魂・雷龍爆牙陣!』」
詠唱とともに、雷と炎をまとった龍が具現化し、九尾へ向かって咆哮を上げる。
「合わせるぞ。『氷結昇雷・呪禁縛陣』!」
芦屋の術が龍の尾へと絡みつき、凍結と束縛の双重効果を付与する。
「いい流れだ……『霊力環流・虚空連結陣』」
晴明がその手に巨大な環のような式盤を浮かべると、三人の霊力が連結し、術式が急激に増幅していく。
龍が巨大化し、空間すら歪む異様な圧が走る。
「だが、直線は避けられる!」
九尾の尾が風を裂き、瞬時に側面へ跳ぶ――その瞬間。
「逃がさないよ」
流威の指が天に走る。空間に“符”が浮かび上がり、九尾の身体に刺さる。
『無明必中・追尾符呪』――命中まで追尾し続ける式符の術。
避けるたびに、符が追いつく。何度、瞬歩で回避しても、どこまでも食らいつく。
「くっ……煩わしい!」
九尾が咆哮するも、その隙を逃さず、レンレンが再び詠唱を重ねる。
「『封天雷獄・震雷斬顕』!」
彼女の背後から浮かび上がる雷柱。芦屋が自らの霊力を直接その術式に流し込む。
「持ってけ……オレの分も、叩き込め!」
そして――
「出てこい、『星炎天狗・護法焔吼』!」
晴明が渾身の符を放つと、空から燃える鳥が舞い降りた。
全身を炎で包み、霊力消費は膨大。だがその一撃は、まさしく“式神の王”。
九尾が悟る。
(これは……負ける……)
一瞬、撤退を思考したその刹那。
「……今、逃げようと思ったろ?」
流威が笑う。
「お前の尾の動き、目線、心拍……全部、もう解析済みだよ。逃げ道なんて、無いよ?」
流威が指を鳴らすと、周囲の空間が閉じる。
霊力で強制的に作り出した“結界迷宮”――『九重封陣・幽獄迷界』。
そこは、九尾が逃げられない世界。避けることも、姿を消すことも、封じられた空間。
「さあ、続きをしようか。九尾」
――戦場の中心で、決着の鼓動が鳴り始めていた。