第百四十話 「神祖の結晶」 Divine Nexus
進化の果てにあるのは、果たして神か、それとも怪物か。
かつて芦屋神祖と呼ばれた存在は、ついに想像を超えた次元へと至っていた。彼は、自らの肉体を流動する超次元の魔質「ゴッドスライム」へと昇華させ、さらに異能の陰陽師・ドーマンとの魂の同化を果たしていた。その融合は、単なる合体を超え、まさに存在の"再定義"であった。
この新たなる存在は、もはや一人の人間でも、一体の魔物でもない。神性、魔性、人性――あらゆる相反する性質が絶妙なバランスで折り重なる奇跡的な存在。それゆえ、神祖はこの新しい自分に「**芦屋玄顕**」という名を授けた。これは過去の自分を超え、未来を照らす新たな根源の名。**神祖とスライムとドーマンの全てを内包する、完全融合体の象徴である。**
だが、その進化は同時に、深刻な副作用をもたらしていた。
新たな芦屋玄顕の内部では、かつて取得した無数のスキル、アビリティ、神通力、式神術、そしてスライム特有の分裂・吸収・適応能力までもが、互いに干渉し、ぶつかり合い、秩序を失っていた。スキル群はもはや星座図を超えて、銀河のように広がり、宇宙そのもののように膨張しつつあった。
「このままでは……自我が崩壊する。」
その危機に際し、芦屋玄顕は一つの決断を下す。それは、あらゆる力を"統合"し、"再構築"すること――。不要な枝葉を削ぎ落とし、本質のみを練り上げ、無数の異質な能力を一つの核に凝縮する。それは、まるで宇宙の始まり、ビッグバン以前の特異点を再現するかのような過程だった。
幾度もの失敗と再演算の末、ついに彼の掌に現れたのは、一つの球体。
淡く光り、透明に輝くその結晶体――その名も、**「全能核」**。
それは攻撃、防御、支援、治癒、創造、破壊、時空操作、概念干渉など、あらゆる能力を内包した究極のスキルである。必要なときに、必要な力を、必要な形で発揮する。無限の可能性を、一点に集約した万能の結晶。
「オムニスフィア」は、彼の意思に呼応して形を変える柔軟性を持ち、物理法則や魔術理論すら超越する存在にまで到達していた。それはもはや、道具や技の域を超えた、「存在そのものを変える力」だった。
しかし、その絶大な力ゆえに、リスクもあった。
オムニスフィアが暴走すれば、世界そのものを巻き込む可能性すらある。その全能性は、使い手の心の乱れや欲望によって、破滅の引き金ともなり得た。
芦屋玄顕は静かに目を閉じ、その手に宿る光球を見つめる。
「……これが我の進化の到達点か。それとも、新たなる試練の始まりか。」
神としての覚醒か、人としての破滅か。その岐路に立ちながらも、彼の中にあるものは――静かな覚悟だった。
そして物語は、静かに、しかし確実に新たな局面へと突入していく。
誰も知らぬ未来へ。
「神祖の結晶」が示すのは、世界の再創造か、それとも終焉か。
 




