第百三十七話 「闘破連鎖」 Chain Break
ルイが床を踏みしめた瞬間、大地が破砕音と共に跳ね上がる。
一歩。その一歩で、階層ごと崩壊した。
「来たか」
背中から滑り出るように現れたのは、淡く発光する二枚の翼。
光の羽根が振動し、重力そのものを拒絶するように空を裂く。
次の瞬間、十尾晴明が尾を引きながら笑った。
「ちょっと荒っぽうなりますけど――モンスターハウス、作り方解析してはります」
尾の先端が地を滑り、魔力の波が階層全体を包む。
床が盛り上がり、壁が蠢き、千体超の魔物が一斉に湧き上がった。
十尾晴明の尾が地に深く突き刺さると、そこから新たな巣が生成される。
空間の密度が変わり、空気が軋む。
「ほな、これにて――おいとまさしてもらいますわ」
空間が爆ぜる。
瞬間、足元から地層が崩れ落ち、深層が姿を現した。
落下する瓦礫は帯電し、爆風と雷鳴が複数層を破壊していく。
そこに、液状の影がするりと滑り込む。
「ええスキルやなあ、全部いただくで」
芦屋神祖のスライム体が一気に広がり、雑魚モンスターを丸呑みにする。
一度取り込まれた敵は、体内で分解され、魔力情報として再構成される。
「火炎、冷気、鋼体、毒耐性、反射膜、追加効果……ごっつええ感じや」
スライムが再び分裂し、ダンジョン全体を覆い尽くす勢いで増殖。
流動体の中で、魔物たちが無音で溶けていく。
跳ねる影が斜め上から割り込んできた。
「たっのし~~~テヘペロォ!」
南無三が三段ジャンプからの跳躍頭突きで中型モンスターを頭ごと圧縮粉砕。
そのまま空中回転しながら後方に爪を突き立て、敵を引き裂く。
飛び散る肉片を滑り台にして、地を滑走。三体の敵を膝で同時に砕く。
「爆発して!! 楽しませてぇ!!」
叫びながら回転蹴り。地面ごと敵を巻き込んで水平断裂。
敵が爆発四散し、その煙の中をさらに跳躍する。
「ボクがやっつけるんだもん!!」
一つ目小僧が叫び、巨大な目がきらりと輝く。
光線ビームが直線的に放たれ、敵の群れを串刺しにして爆発。
「もういっちょだもん!」
今度はスパイラル軌道の光線。
敵の背後を回り込むように発射され、包囲された味方を避けつつ背後から爆砕。
「ぜんぶぜんぶ壊すんだもん!」
広範囲拡散レーザーが放たれ、階層ごと斜めに切り落とすような閃光が走る。
天井が燃え、地面が白く溶ける。
風が逆流し、魔力の流れがひときわ強くなる。
ルイの翼が震えた。
背中にあるのは二枚の翼――だが、魔道書がその動きを止める。
「これは……」
懐から取り出した魔道書が、勝手にページを開いた。
古い術式が空間に浮かび上がり、ルイの瞳が紅く染まる。
「父の術式……懐かしい」
魔力が閃き、二枚の翼が裂けて分かたれる。
六翼、展開。
刹那、周囲の重力が反転したように感じられる。
翼が回転しながら空気を切り裂き、地形ごと敵を斬り裂いた。
「……もう止まらない」
そのまま突進。斬撃・突進・跳躍・反転・落下――すべてを六翼が最適化して斬撃運動に転換。
敵は触れる間もなく、斬られ、砕かれ、魔力とともに蒸発する。
一つ目小僧が口を尖らせる。
「ルイくん強すぎるんだもん……でも、ボクも負けないんだもん!!」
超高速チャージ。
眼球の奥が光り輝き、収束ビームの集中射が一点収束→一点突破→五重爆発へと昇華する。
芦屋神祖のスライムが増殖し、階層の壁を喰い尽くす。
取り込んだ魔物の数は一万体を超え、体内で構築された魔術方陣がすでに百を超えていた。
「うちのスライム、もう神経網持ってるんちゃうか……」
十尾晴明の尾が回転しながら次の層へと回転掘削を始める。
その背後から南無三が、爆発の柱を背負って飛び出してきた。
「うひょーーっ☆ 爆発のスープできあがり~~!!」
頭突き→スライディング→爪ジャンプ→踵落とし→吠えながら回転。
そのすべてが殺意のパフォーマンス。
残骸の山が築かれるたびに、敵の再出現数が追いつかない。
六翼の斬撃が再び舞う。
斬る。突く。裂く。穿つ。散らす。貫く。
ルイの身体は光の旋律となり、戦場を支配する。
翼が振るうたびに、魔力が次層を呼び覚まし、ダンジョンはさらに深くへ――
崩れ落ちる空間の中、彼らは止まらない。
破壊は連鎖し、連鎖は加速し、加速はさらなる闘争を引き寄せる。
闘破連鎖は、まだ終わらない。




