第百三十五話 「冥府の礎」 Foundation of the Underworld
ハデスの神格が砕け、その残滓が冥界の闇へと溶け落ちていった。
その場に立つメフィストは、神格の散りゆく光を見つめながら、静かに指を鳴らした。
「さて、各自受け取るがいい」
ベルゼバブが羽音を鳴らし、サタンが炎を纏い、マモンが地獄門を開く。ハデスの神格は、それぞれの悪魔に適した形へと変質し、新たな力として組み込まれていった。
***
やがて冥界の中心――かつて神核が存在していた場所に、骨で構成された玉座が現れる。
その玉座は、神々の遺した力が凝縮されたもの。座る者を支配し、冥府の王として君臨する象徴となるだろう。
メフィストは玉座を見上げ、軽く笑った。
「ふむ……案外、座り心地は良さそうだ」
しかし、彼はその場で腰を下ろさず、後方に立つマモンへと視線を向ける。
***
「冥界を地獄へと変える」
メフィストの声が響く。
「神格を奪われていない蘇生待機状態の死神ども――奴らを亡者と合成して復活させる実験を始めろ。お前に任せる」
マモンは冷笑しながら頷いた。
「面白いな。冥界そのものを利用し、死者の再構成を試みるか……確かに貴様のやることは、毎度ながら興味深い」
この実験が成功すれば、冥界はさらに混沌とし、神々の法則から逸脱する“異形の領域”へと変貌するだろう。
***
神界への進攻ルートとして冥界を利用する。
そのためにも、まずは手に入れた拠点の防御を固める必要がある。
「梃入れから入ろう。魔道書の封印術式を拡張し、防壁として機能させる」
冥界の壁には新たな術式が編み込まれ、神々が進攻した際には封印が“緩みながらも自己強化”される仕組みが施される。
防御が破られれば破られるほど、冥界の力は増大する。
「猶予は三ヶ月――だが、今でも神と戦える者が数名存在する」
メフィストはルイたちの成長を想いながら、計算するように呟く。
「三ヶ月で、戦うことは可能だ。だが、“神格を破壊する”のは別問題だ」
彼の視線が、遠くを見据えた。
未来が楽しみだ、とメフィストは笑った。
最終的には――
「ルイ様を殺して喰うことができるのか……」
まだ果実は熟していない。
しかし、いずれその時が来る。
「美しく実った頃に――最高の味で頂くとしよう」
冥界に響く悪魔の囁き。
それは、新たな狂宴の始まりだった――。




