第十三話「九尾 前哨戦」 Nine-Tails: The Skirmish
天を覆う瘴気。九本の尾が揺れるたび、空間が歪み、大地が呻く。
「さあ、始めようか。まずは…式神たちで様子を見せてもらおう」
晴明が静かに符を切る。芦屋もそれに続き、数体の式神が前衛へと躍り出る。
「焔狐・夜叉丸、前へ」
「氷猿・雪喰、出陣」
九尾は動かない。ただ、瞳を細めて獲物を見据える。その瞬間、閃光。
狐火の矢が放たれ、式神のひとつが爆ぜた。だが、もう一体は接近して呪符を叩き込む。
――無反応。直後、尾がしなり、雷の奔流が走った。
「一撃で、二体とも……!」芦屋が呟く。
「雷撃、火炎、幻術……すでに三属性確認。魂の継承による異能か」
流威は呟きながら、式神の反応と残滓から術式の波形を解析していた。
次に進み出るのは、レンレンの操る中国式キョンシー軍団。
「九尾、貴様がどれほどの力を持とうと、我が霊符兵に喰われよ!」
キョンシーたちは飛びかかるが、九尾は尾の一本で軽く払い落とし、次いで宙に文字を描く。
「空間圧縮? 時間停止……いや、魂遅延だ!」
流威の目が光る。
キョンシーたちが凍りついたように動きを止め、雷撃で貫かれる。
レンレンが叫ぶ。「なんて霊圧……この狐、マジで神域に片足突っ込んでるじゃない!」
「面白い……じゃあ、今度は俺の番だ」
流威が指を鳴らすと、彼の背後から十数体の式神が次々と出現する。
「何も考えず、突撃しろ」
「百目、構わず撃て」
指示が飛ぶ。百目が唸り、魔眼からレーザーが奔る。晴明は雷撃の札を連続で放ち、芦屋は氷結術を展開する。レンレンも巨大な符を叩きつけ、火炎の爆風が炸裂する。
流威の式神たちは、まるで弾幕の中を縫うように突撃し、次々と倒れていく。だが、そのたびに、流威の解析は進む。
「次……重力干渉、空間断層、魂剥離。九尾……お前、いったい何を喰ってきた?」
式神が犠牲になりながらも、確実に情報は蓄積されていく。
「まだだ……まだ全容が見えない。だが……もう少しで、見える」
流威の目が、九尾の核を捉えようとしていた――。