第百三十二話 「深淵奏界」 Symphony of the Abyss
冥界に亀裂が走る。
禍々しく脈動する裂け目の中心、浮かぶのは――**神核**。
その一点に視線を注ぐのは、神も魔も死も等しく“飢えた者たち”。
サタンが吼え、ベルゼバブが羽音を響かせ、マモンは地獄の門を広げて亡者を蠢かせる。
月詠とカーリーは無言で、殺意の刃を振るい、ハデスは静かに世界の終焉を整えつつある。
「まだ足りない」
メフィストが魔道書を広げると、そこから**深淵に在る3柱**が舞い降りた。
* **戦域を律する将軍**、グラシャラボラス
* **理を欺く悪魔**、アスタロト
* **死を否定する焔鳥**、フェニックス
戦場を制するために呼ばれた、支配ではなく突破のための陣容。
この3柱を核に、冥界の戦場が更に音を立てて崩れていく。
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黒き羽音と共に、グラシャラボラスの翼が拡がる。
半径10キロに満ちるのは、**味方への鼓舞と敵への抑圧**。
霊圧、筋力、魔力が跳ね上がる悪魔達が咆哮し、同時に神々の身体が鈍化していく。
その加速を活かして、メフィストが**重力を刃に変えた**。
地を這うような黒光が戦場を横断し、ベルゼバブの群蠅すら巻き込みながら、カーリーの片腕へと届く。
しかしカーリーは平然と腕を振るい、切断された空間ごと修復せんとする神撃を放つ。
「なるほど、良い配置じゃない」
アスタロトが滑るように入り込み、反転術式を展開。
飛来したハデスの死波を\*\*“再生波”へと変換\*\*し、死神たちが意味もなく蘇る。
それを見た月詠が眼を細める。「遊んでる場合じゃないみたいね」
背に三日月を浮かべたまま、疾駆するように光刃を振るい、フェニックスの羽を切り裂く――
だが斬られたその場から、**第二のフェニックス**が炎と共に蘇った。
「時間を稼げ、フェニックス」
メフィストの声に応え、焔鳥が**連続の蘇生を火柱として展開**。
神々の攻撃が激化するなか、仲間全体へ回復と再生が循環する。
それは**死すら誤差とする空間**の誕生だった。
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戦場はすでに形を失っていた。
マモンは地獄の門から亡者を解き放ち、敵味方問わず引きずり込む。
アスタロトの術で門が“無害な出口”になったかと思えば、再び**敵専用の呪殺空間**に反転する。
グラシャラボラスは、**呪詛の黒炎**を戦場一帯に展開。
この呪炎は回復を焼き、思考を鈍らせ、そして魔力の残響に引火して爆発する。
フェニックスは高空から灼熱の雨を降らせ、**蘇生の光と死の焔を同時に撒き散らす**。
敵が倒れ、再生し、また倒れ、そして焼かれて蘇る――それは冥界に似て、冥界ではない狂乱。
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だが神々も沈黙していない。
月詠の斬撃が**時間差で炸裂**し、アスタロトの周囲を複数の三日月刃が囲んだ。
一閃――空間ごと崩れたが、アスタロトはその瞬間、攻撃と回避を**反転**し自分だけを残す。
「それが、君の精一杯?」
カーリーの腕が拡がり、神の破壊因子が解放される。
彼女の放った斬撃が**次元ごと叩き割る断層となり、地形が三層に分断**される。
その中央に立つハデスは静かに杖を振るい、死域を拡張した。
空気ごと「死に感染」させる異能が、フェニックスを一時的に無力化――
だが、炎鳥は**3秒で再起動**し、メフィストの背中を守るように飛び込んだ。
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そして、すべてが交差した。
空間が軋む。
音が消えたかと思えば、光が“内側”から爆ぜる。
メフィストの重力場が全方位を圧縮し、敵味方問わず時間ごと潰しにかかる。
アスタロトの反転術が空間の因果を捻じ曲げ、カーリーの神波がそれごと切断する。
次元が、悲鳴を上げた。
「この場に“存在”していること自体が異常になり始めてるわね」
月詠が静かに呟いたとき、神核が――“自ら逃げるように”振動を始めた。
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それでも、メフィストは前に出る。
「……目的は、崩壊じゃない。“突破”だ」
三柱に命じる。
グラシャラボラスが黒翼を掲げて結界を壊し、アスタロトが反転術で神々の視界を遮断。
フェニックスはその瞬間だけ、燃え尽きる覚悟で仲間全員に**蘇生の加護を2重付与**した。
そして、メフィストが詠唱を終える。
空間を破壊しながら収束する、**黒重力のレーザー**が冥界の中心に直撃。
視界が白く塗り潰された。
爆心から外れた死神たちすら、立つことを諦めて倒れ伏す。
神核は――まだ砕けてはいない。
しかし確実に、今、その核心は誰よりもメフィストの指先に近い。




