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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第六章 四国同盟、闇洞突破戦 — Shikoku Alliance: Dark Hollow Breakthrough
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第百二十九話 「冥界突入」 Gate of Perdition

 冥界の門が、目の前にそびえている。


 黒く、巨大で、まるで無限の死を凝縮したようなこの門をくぐるのは、これで何度目だろうか。

 過去に何度も神と戦った経験はあるが、たいていは途中で邪魔が入る。神々はお互いに牽制し合い、正面からの決着を避ける傾向が強い。だからこそ、今回のような「突撃して殺して構わない」という明確な命令付きの召喚は、ほとんど経験がない。


 メフィスト──私を使役できる存在など、まずいない。それほど私の位階は高く、制御が難しいからだ。

 だが、今回の召喚者は違った。神と面と向かって戦争を仕掛けるという、常軌を逸した存在。その狂気じみた意思には、正直、私の期待以上のものがあった。


「フフ……面白い」


 門を抜けた先で殺し合いが始まれば、同僚たちにいちいち状況を説明する手間も省けるだろう。まずは突破しよう。呼ぶのはそれからだ。


 私はゆっくりと、冥界の門をくぐった。





 門の中はすでに異常な気配で満ちていた。

 空間が重く、時間すら粘つくような感覚。冥界特有の、あの死の圧力。

 そして──次の瞬間だった。


 **ヒュン──ギン!ギギィンッ!!**


 耳をつんざく風切り音とともに、数百の大鎌が一斉に飛来してきた。

 四方八方、空も地も埋め尽くすような斬撃。冥界の死神たちが、全力で私を排除しにかかってきたのだ。


 視認できた致死性の一撃は、358。

 しかも掠っただけで、45%の確率で即死する大鎌の呪詛つき。

 私は即座に反応した。三撃を弾き、二撃を回避、空間をねじ曲げて進路をずらす。しかし──


 一本が左腕をかすめた。


 その瞬間、**ズバァッ!!**

 私の肉体は真っ二つに裂かれ、さらに連鎖的に裂け続け、**最終的に三十の肉片**に分割されてしまった。


 滑稽なものだ。左腕をかすめただけで、ここまで見事に解体されるとは。

 だが、これが終わりではない。むしろ始まりだ。




 斬られた三十の肉片はそれぞれ変異し、独立した三十体の「メフィスト」へと変わる。

 どれもが私のコピーであり、完全な意識と魔力を備えた分身体。


「挨拶代わりに、少し暴れましょうか」


 私たちは、静かに空間を制圧し始めた。





 三十体のメフィストが、全員で魔導陣を展開。

 空間がゆがみ、闇が裂け、小型ブラックホールが次々と冥界の地に出現する。


 **ゴォォン──ッ!**


 死神たちは咄嗟に逃れようとするが、重力の渦に吸い込まれ、身体を潰されながら闇に消えた。

 一瞬で百体以上の死神が霧散する。




 五体のメフィストが**幻影術式**を発動。

 総勢百五十もの分身体が戦場を埋め、死神たちに四方から襲いかかる。


「死の番人が背後を疎かにするとは──不謹慎ですね」


 幻影たちが笑いながら大鎌を奪い、逆に死神たちの首を落としていく。





 一体のメフィストが空中に浮かび、魔道書を開く。

 封印されたページを強引に開き、そこから呪詛の方程式を解き放つ。


 **「第八級・演算呪詛砲ノートゥング・バースト」**


 巨大な呪詛砲が解放され、直線上の死神部隊と冥界の構造そのものをまとめて吹き飛ばした。




 十体のメフィストが**時の魔法**を展開し、時間を数秒巻き戻す。

 死神たちの行動パターンを完全に解析し、未来に起こる斬撃を先取りして実行。


「もう逃げられませんよ。すでに斬られた未来が、貴方たちの現在です」


 死神たちは、自分が死ぬ瞬間の“未来”とともに、現実でも身体を真っ二つにされて崩れ落ちた。




 私は再び魔道書を開き、最深部のページを開く。そこには重々しい封印がかかっていた。

 この呪式は、私と同格の同僚──“あの男”を呼ぶためのもの。


 ページが開かれると同時に空間が裂け、地獄の気配が溢れ出す。


「──サタン、起きてください」


 召喚に応じ、空間から現れたのは、翼を広げた悪魔王。

 冥界の重力が彼を嫌うように軋み、周囲の死神たちが一歩引く。


 だが、彼は私を見るなり、いきなり私の首を噛みちぎった。


「挨拶が雑ですね〜」


「……うるせえ。三次元ってのはいつ来てもクソつまらねぇな。なんだこの雑魚共?」


「神ですよ、一応。形式上は」


「はっ。冗談キツいな。──まあいい、皆殺しで行こう。寝起きのストレッチ代わりだ」




 サタンが両腕を広げ、次元に裂け目を作り出す。

 その隙間から、炎に包まれた悪魔兵が次々と出現し、冥界の地に降り立った。


「地獄軍、展開。敵は死神・冥界騎士・神官部隊。目標は殲滅だ」


 悪魔軍が一斉に突撃し、戦場はさらに拡大していく。




 メフィスト三十体とサタン、そして数千の悪魔兵。

 対するは冥界の精鋭──死神軍団、神官、騎士、冥府の巨神。


 冥界そのものが戦場となり、空が裂け、地が焼け、時間が泡のように崩壊していく。


 この空間に、もはや秩序などない。



 神が作ったこの冥界という舞台──

 しかし、私たちにとってはただの前哨戦。地獄の始まりにすぎない。


「さあ、開演だ。これは“神殺し”の劇の、ほんの幕開けだ」


 戦場に立つ私の影が、無数に分かれ、また新たな戦いを求めて動き出した。

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