第十二話「九の尾、九の魂 ― 破邪会議、始まる」 Nine Tails, Nine Souls — The Exorcism Council Begins
「九尾――魂を喰らい、九つの能力を得た化生の極致」
会議室に張り巡らされた結界の中、安倍晴明が口を開いた。その声は静かでありながら、芯に鋼を孕んでいる。
「その存在は、もはや妖怪の枠を超えている。魂を九度、完全に喰らいきった“完成体”だ。もはや一国を滅ぼすに足る存在だと言っても過言ではない」
「しかも、その魂の持ち主が普通の人間とは限らないのが厄介だね」
芦屋道満が口元に扇をあてながら、涼しげな顔で言った。
「天才術者、鬼、妖怪、陰陽師……。喰われた魂の能力を使える以上、実質九人分の強敵だ。しかもそれぞれが異能持ち。質が悪い」
場に重苦しい空気が流れた。
そこに異国の鈴の音が響いた。
「皆様、ご機嫌よう」
現れたのは、紅の唐装に身を包んだ麗しき少女――中国の退魔師、蓮蓮だった。腰には道教の剣と、幾重にも巻かれた呪符の束。手には封印された黒曜の珠、殺生石の欠片。
「本国より伝わる退魔の秘術により、この石を媒介として九尾の魂核に干渉できます。ただし、精密な霊力操作と高度な符術融合が必要ですが」
「面白いな。どれ、見せてくれ」
興味津々の芦屋が目を輝かせる。晴明も真剣な表情で石を見つめた。
レンレンが石に符を貼り、静かに術式を紡ぐ。空間が一瞬きらめき、霊力が静かに石へと浸透する。
「……すごい集中力。霊力の螺旋が内側に反転して封じてる。まるで刺青のように記憶されていく構造……」
「うん、使えるな。俺なら三層構造にして、衝撃反応型の術式に変えるが」
芦屋が片手をかざし、術式を改良。レンレンの眉がぴくりと動いた。
「じゃあ、俺は……こうするよ」
流威が歩み出て、石を両手で包み込む。式神の魂が周囲に浮かび上がり、各々の属性を帯びた霊力が奔流となって注がれる。
「契約した魂の記憶を通して、封印術式を自己学習させて自己修復型にする」
「じ、自動で!?」
レンレンの顔が引きつる。
「さらに、封印の霊力に対する九尾側の共鳴波を利用して、向こうの力を“逆流”させるフィードバック構造にすれば、実質的に奴の霊力を自分で縛ることになる」
「霊力を逆流させて自縄自縛に……?」
レンレンの額に冷や汗が浮かぶ。
(なにこの少年……)
「それで完成。たぶん、もう少し石が光るよ」
ぱん、と流威が手を離すと、殺生石が低く唸り、赤黒い光が淡く脈動し始めた。
レンレンは言葉を失い、ただ内心で絶句する。
(化け物なのでは……?)