第百二十二話 「全力戦線」 Total Front Assault
タナトスの大鎌が空を裂いた。
死という概念の塊が波のように押し寄せるその刹那、
ついに、ルイが最後の切り札に手をかける。
これまで、ルイは仲間たちをアシスト・索敵・予備戦力として慎重に運用してきた。
それは全体戦力をコントロールするための最適戦術であり、敵の情報が不明な今、無理に戦わせる意味はなかった。
だが――
今ここに、それはすべて崩される。
「総員、戦線に出ろ。全力で、潰す」
ルイの言葉と同時に、全戦力が一斉に動き出す。
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双剣を構えたランスがアーサーと並び立ち、風のように駆ける。
「背中は任せる」
「当然だ」
聖剣と双剣が影の裂け目を切り裂き、タナトスの鎌を逸らす。
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ポンタは四つの尾をなびかせてルイに化けた分身体を展開。
「モノマネ分隊、混乱任務いっきまーす☆」
幻影と高速移動でタナトスの目を攪乱し、射線を狂わせる。
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南無三が目を見開き、冷笑する。
「テヘペロ! 全弾照準、妖力マシマシでぶち込むわよぉ♡」
乱舞する霊弾が死神の胴体を容赦なく貫く。
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芦屋神祖が液状式神を放出し、タナトスの足元へ。
「スライム、喰らいついて離すな! 喰霊機能、全開だ!」
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十尾晴明が空に陰陽図を描き、天と地の霊気を一斉に逆流させる。
「死の概念は――再編可能。だったら、書き換えてしまえ」
全身から放つ十尾の呪術が、タナトスの霊核に干渉し始める。
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アシュラが六本の腕で同時に斬撃、打撃、投擲を繰り返す。
「数で押す? 違ぇよ。これは"質で叩き潰す"だ」
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真祖ヴァレンティナは一切の言葉なく上空から霊流を凝縮。
彼女の一撃一撃が、死の霊気を吸い、変質させていく。
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そして、ルイはつぶやく。
「メフィスト――彼を呼べ」
魔道書が静かに開き、虚空から仮面が現れる。
「この場面で“あの男”か。……面白い」
そして、時空が裂ける。
世界の構造が軋む音を立て、異なる位相からひとりの男が現れた。
*オーマエハ・モー・シンディール*
もう一つの世界の“住人”。
メフィストと契約を交わした、ルイとは別のパラレルワールドの強者。
鋭い眼差しをこちらに向ける。
だが、ルイは挨拶の暇すら与えない。
「挨拶は不要だ。君も戦えるんだろう? だったら――とりあえず猫の手でも借りたいのでね」
シンディールは薄く笑うと、懐から一枚の金属板を取り出した。
「これは素材にちょうどいい。…俺の世界じゃ、こういうのを“神造兵装”って呼ぶ」
そのまま手をかざし、錬金術を発動。
タナトスの大鎌が分解され、神域金属の**アダマンタイトインゴット**へと変換されていく。
そして即座に錬成。
**《神域鋼霊式・ゴーレム》**
神話級金属から生まれたゴーレムが、咆哮をあげながら死神へと突撃を開始した。
「さあ、こちらの“世界のルール”にも、慣れてもらおうか」
シンディールはそう告げると、背後から異形の槍を召喚し、霊流を纏って跳んだ。
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そして今、ルイを中心に、世界を超えた戦士たちがタナトスを包囲する。
全力の、総力戦が始まった――。




