第百十八話 「千の骨より生まれる者」 Revenant Genesis
砕け散ったスカルドラゴンの亡骸が、夜の空気に溶け込むように崩れ落ちていった。乾いた風が戦場を吹き抜け、骨の破片が音もなく積み重なる。
人骨の山がそびえ立つ。静寂の中、戦いを終えた者たちは剣を構え、周囲を警戒しながら徐々にルイの元へと集まってきた。
ルイは一歩、山の前に進み出る。
彼の目が捉えたのは、まだ消えきらぬ魂の残滓。空間を漂い、断片的な記憶と感情をたたえた光の霧。そのどれもが、自我を完全に失っている。
「……仕上げよう。」
ルイは精霊とコンタクトを取り必死に蘇生法を探っていた。
ルイは深く息を吸い込み、ゆっくりと手をかざした。龍脈の魔力と霊力が螺旋を描きながら指先へと集まり、魂の残滓を一つに纏めていく。やがてそれは、一つの強固な意識を持ち始めた。
渦巻く感情——それは、**後悔と復讐の念。**
かつて戦場に散った者たちの無念が融合し、一つの自我として再構築される。誰か個人のものではなく、幾千の断片が集まり、"名前のない意識" として生まれた。
**その器を作らねばならない。**
ルイが手をかざすと、彼の背後に浮かぶ魔導書が輝き始めた。討伐ドロップ、採取物、錬金素材——それらが魔導書のストレージへと吸い込まれ、空中で渦を巻く。まるで万物を飲み込むように、骨の一片すら逃さず収集していく。
**千の骨が、器へと転じる。**
芦屋神祖が手を添え、緑がかったスライム型の培養器を形成する。その中に錬成した器を沈め、ルイは静かに霊力、魔力、そして龍脈のエネルギーを注いだ。
周囲にいた精霊たちが、ゆっくりと近寄る。神秘的な言葉を紡ぎながら、祝福と加護を器へと注ぎ込む。
**——そして、その瞬間。**
スライムの中で、人の形が生まれる。
だが、その姿はただの人間ではなかった。スカルドラゴンの素材が混ざり、龍脈の力が影響した結果——その青年は、**竜の要素を持つ者** へと変じた。
長くしなやかな尾、爪先に浮かぶ鱗、そして瞳に宿る深紅の輝き。
スライムの膜がはじけ、彼は地に降り立った。
ルイは静かに問いかける。
「お前の名は?」
青年はしばらく沈黙し、迷うように自身の手を見つめた。
そして、ぽつりと答える。
「……わからない。」
ルイは、一瞬考える。そして柔らかく口を開いた。
「ならば、お前は **ナナシ** だ。」
青年はゆっくりと目を閉じ、その名を噛みしめるように一度、呟いた。
ナナシ——名の無き者。
千の骨より生まれし者。
今、この地に降り立った。




