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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第六章 四国同盟、闇洞突破戦 — Shikoku Alliance: Dark Hollow Breakthrough
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第百十七話 「聖域逆流 禁呪脈動」 Sanctum Recoil - Forbidden Pulse

 風がうねる。

 爆風でもなく、熱風でもない。

 それは、スカルドラゴンが吐いた“存在そのもの”の余波──あらゆる生命が拒絶する、死の波動だった。

挿絵(By みてみん)

 残骸を踏み越え、揺れる結界の下、片膝をついた影が立ち上がる。

 左手が痺れ、指がうまく動かない。だが、右手は離さない。

 七つの輪が再び展開される。

 光が舞い、空間を区切り、味方の陣形を“整える”。


 その背後、粘体が風を裂いて飛翔する。

 無数のスライム弾が上空で弾け、奇妙な振動とともに骨の軋みを止めた。

 主は語らずとも、その狙いは明白だった。


 スカルドラゴンの構造に割り込む。

 再生の連鎖を「遅らせる」ための時間稼ぎ。

 空を滑る粘体が接触した瞬間、骨の再編速度が鈍る。


 その隙に──気を裂いて踏み込む影。

 発勁が放たれる。踏み込み、旋回、掌底。

 気を震わせて一点を突き、頭蓋の中央を砕きにかかる。


 しかし、構築が速い。

 砕かれたはずの骨は即座に交換され、弾かれた拳が空を切る。

 骨の波がうねり、芦屋の肉体が吹き飛ばされる直前、再び盾の輪が展開され──寸前で防ぐ。




 空気が震えた。


 遥か後方、骸の山を越えた高所。

 そこに立つ小さな影が、ぐいと右目を光らせる。

 指を前に突き出し、口元がにやりと笑う。




「一撃必殺だもん」




 次の瞬間、虹色の光線が閃いた。

 空を突き刺すような直線。空中で跳ね、反射し、スカルドラゴンの左翼を貫いた。

 肉は無いが、骨の組織が一瞬で焼き崩れる。

 光が止むと同時に、滑り落ちた骸骨が地に激突した。


 その間隙──地が反応する。


 竜脈が波打ち、逆流の兆しを見せる。

 魔法陣の輪郭が滲み、地中から白銀の尾がゆっくりと姿を現す。

 それは迷いなく突き刺される。中心核へ。術式の根へ。

 魔力の流れが狂い出す。


 術者が制御を失う。


 空中で、スカルドラゴンの構造が一瞬だけ“浮く”。


 その一瞬を見逃さなかった。

 空気が弾ける音とともに、双剣が光を帯びる。

 輪のうち二つが剣へと収束し、柄から刃先まで天光を纏う。


 足元の地がひび割れ、重力を断つ。


 一歩。

 空気を押しのけるような踏み込み。

 二歩。

 重心を溜め、全身を捻り、

 三歩目──踏み切り、空を裂く。


 双剣が十字を描いた。




 超聖輪斬・グランドクロスマグナ




 空間が静止する。

 閃光が全ての音を奪い、周囲の骨が一瞬だけ宙に浮いた。


 次の瞬間。

 斬撃が通過した軌跡が、天と地を分断した。


 スカルドラゴンの胸部が、十字に裂ける。

 砕けた骨が叫びを上げ、中心核が露出する。

 光の残滓がそのまま閃きとなり、露出した核を焼き尽くす。


 骨は崩れ、再構築は追いつかず、

 万の魂が空へと放たれていく。




 静寂。


 爆風が去り、煙が退き、

 風がようやく通常の流れに戻った。


 光輪がゆっくりと剥がれ、

 剣を支えに、ただ立つ影の前で──


 スカルドラゴンが、完全に崩壊した。




 だが、その中心。

 光が消えた空に、なおも何かが残っていた。


 黒煙の内に、ほんのわずかな“鼓動”。


 それは鼓動ではない。

 胎動だ。


 魔力が蠢く。

 竜の核が潰されたにも関わらず、

 未だ“何か”が、再び姿を成そうとしていた。


 白い尾が地に滑り、影が呟く。




 ──「まだ、終わりではなさそうだな」




 冷たい風が戦場を撫でる。

 次なる存在は、既に目を覚ましかけていた。

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