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神の余興により堕とされた異端の翼、その者、異界にて覚醒し神すら恐れる陰陽術を操る  作者: アマ研
第六章 四国同盟、闇洞突破戦 — Shikoku Alliance: Dark Hollow Breakthrough
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第百十六話 「粘幻掌陣」Slime Fang Huajin Palm

 ぬるり。空気を切り裂く音が、骨と鉄の音の狭間を縫って響いた。

 戦場の中心から少し離れた斜面、芦屋神祖は太極の構えを静かに取ったまま、身の周りを浮遊する淡い光球を見やる。




 それはスライム――だが、ただの魔物ではない。

 空中にふよふよと漂い、ゆるやかな円を描いて旋回し、

 彼の気に応じて即座に動きを変える“意思ある粘体”。




「ほな……右前、三体寄ってきとるな。いっとき」




 掌をわずかに動かすだけで、スライムがすっと飛び立ち、

 三方向から敵を囲むように滑り込んだ。




 ド、パシュ、シュルル。




 音もなく包み込まれた骸骨兵が、次の瞬間、部分的に崩れ落ちる。

 関節を削り、骨を溶かし、反応を奪う――完全に殺す必要はない。動けなければいい。




「左、崩れるの早いで。補填、二体回して」




 空に浮かぶ粘体が回転し、味方の抜けた戦線へと補填されるように飛んでいく。

 その動きすら、まるで掌の延長のように、芦屋の技と溶け合っている。




 一歩前へ出るとき、彼の足元の気が地に吸われ、掌が微かに光る。




「陰掌……っと、止まりぃ」




 振り向きざまに突き出された掌から、薄く広がる凍気が放たれ、敵の動きを封じる。

 同時に背後から接近していた影に対し、スライムが自律的に落下、内部爆裂。




 だが――




「……なんや、やけにしつこい回復しよんな」




 立ち上がる。再生する。

 削っても削っても、ぬるりと復活する気配。

 全体のバフ――これは、尋常じゃない。




 そして次の瞬間、空が鳴った。

 乾いた骨が軋み、空中に渦巻いていく。

 砕けた肋骨、歪んだ大腿、古の顎。全てが空中へと吸い込まれ、巨大な骨格の核へと合流する。




「……なんか来よるな、」




 芦屋の眉がぴくりと動く。

 そのまま、構えを取り直すと、両足を斜に踏み込み、太極拳の中段姿勢へと遷移。




「せやけどまあ、一発くらい、様子見とこか」




 重心を落とし、腰のひねりと共に、掌底が突き出される。




「発勁」




 目に見えぬ衝撃波が、骨の集合体の核心へと撃ち込まれる。

 一瞬、骨が弾け、結合が解けた。




 だが次の瞬間――骨は、勝手に補填され、形を戻す。




「ほらな、効くけど、回復のが早いわ」




 芦屋は掌を下ろし、浮遊していたスライムたちに呼びかける。




「攻撃、全引き戻し。防御展開開始や。……今は“耐える時”やで」




 スライムが一斉に戻ってくる。

 中空で旋回しながら、味方の陣形を囲むように展開。

 一部は粘壁となり、他は接近する敵への反応式に変化する。




 骨の竜は、完成した。

 それを支える魔力が、地の底から蠢いている。




(晴明……お前、よう頑張っとる。この龍脈、普通なら全滅や)




 だが、今この場には――

 天使の輪を持つ剣士、

 呪を吸い上げる陰陽師、

 そして、芦屋とスライムたちがいる。




「そうそう簡単に、好きにはさせへんで」




 芦屋の目の奥に、一瞬光が宿る。




 ──そのとき。

 スカルドラゴンの全身が、ピタリと動きを止めた。




「ん? ……今、術、切れたんちゃう?」




 直後、後方から元気な声が飛び出す。




「今なら倒せるんだもんっ!」




 一つ目の小僧が、満面の笑みで突撃する。

 芦屋は口元をゆるめ、静かに立ち上がった。




 再び浮遊するスライムたちが、周囲で陣を描く。

 芦屋は両掌を広げ、陰と陽を呼び起こす。




「――《粘幻掌陣・裂界掌ねんげんしょうじん・れっかいしょう》!」




 掌底の一撃と共に、スライムが導く螺旋軌道に乗って一斉突撃。

 骨の竜を囲むように円を描き、結界を裂くような粘光を放つ。




 スカルドラゴンの胴体に、灼熱と冷気が同時に走り抜けた。




「割れ目、入ったで……ほな次、いこか!」




 粘る力と掌の技――その連携が、ついに竜の不滅を崩し始めた。

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