第十一話「鬼は酒より強きを好む」 Oni Prefer Strength Over Sake
「酒呑童子――その名の通り、酒と喧嘩が何より好きな災害級の鬼だ」
情報収集のため、芦屋家の古文書と妖怪絡みの伝承を調べた流威は、苦笑交じりに呟いた。
「つまり、酒を用意すれば機嫌は……いや、逆に火に油か」
それでも会うならば、最善の備えをと決めた流威は、陰陽術で酒蔵を再現。古酒から神酒、異国の魔酒まで、百種以上を並べた異界の宴席を準備した。
――そして約束の日。
大地が震え、空が紅蓮に染まる。
「おぉーっ、用意してんじゃねーか! オレ様の名前、伊達じゃねぇな!」
豪快な笑いとともに、朱の鬼が現れた。身の丈二メートルを超える筋骨隆々の巨躯、背負った大太刀、酒瓶を咥えた口元がにやりと笑う。
「……酒呑童子。歓迎するよ」
「礼儀正しいなァ、気に入ったぜ。だがな……!」
酒呑は酒をひと呑みし、瓶を粉砕。
「まずは力比べだろ? 陰陽師! 霊力ぶつけてみやがれ!」
流威は目を閉じ、両手を組む。周囲の空気が一瞬で変わった。地脈が震え、霊気が渦を巻く。
「行くよ――《霊壌開陣・大極相転》!」
天と地を繋ぐ巨大な霊力陣が展開され、万象を包み込む。酒呑の顔から笑みが消える。
「なっ……!? 霊力の密度が、桁違い……っ!」
圧倒的な力の奔流が酒呑童子を押し潰す。だが――
「へへっ、だから面白ぇんだよ! やっぱオレの勘は正解だったなァ!」
全身から鬼気を爆発させ、酒呑童子が突進。
「いっちょ暴れさせてもらうぜェッ!!」
その瞬間、茨木童子が前に出た。
「よぉ親友、今日はオレが相手だ!」
「チッ、茨木てめぇ、まだ邪魔すんのかよ!」
さらに、阿吽が空から雷鳴と共に降り立つ。
「主命により、討つ!」
「五つ尾の爆焔、吼えるぞ!」
各式神が同時に動き出す。白鬼・禍鎖丸の結界が空間を封じ、炎と雷、影と氷が交錯する。
だが、酒呑童子は笑いながら耐え続ける。どれだけ打ち込まれても、倒れない。だが確かに――
「……ハッ! オレ、楽しい! 最高だなオマエら!」
全身傷だらけのまま、酒呑童子が両腕を広げた。
「負けたぜ、陰陽師! オレも仲間にしやがれ!」
流威は小さく笑い、手を差し出す。
「ようこそ、我が式神へ」
酒呑童子はその手をがっちり掴み、契約の印が輝いた。
「絶対だぞ、強ぇヤツが出たら一番に召喚しろ! それが条件だ!」
流威は頷いた。
「約束するよ――酒呑童子」