第百十二話「死者の指揮官」 Necro Conductor
黒き空の下、死の風が唸る。
爆ぜる影と共に、南無三の姿が宙を裂いた――だが、その動きに呼応するように、八体のエリートアンデッド護衛兵が瞬時に陣形を変える。
**雷撃の双剣士**が前方に飛び出し、稲妻の刃で迎撃。
その背後からは、**風を斬る大太刀使い**が斜めに切り込んでくる。
「わぁっと!?初手から殺る気満々ね〜☆」
南無三は空中で身体をひねり、雷撃を回避しつつ、掌に握った呪符を雷士の双剣に叩きつける。
**ビリィッ!**
呪符が発する逆位相の符文が雷を打ち消し、刃が鈍る。
「お返しっ☆ テヘペロ!」
彼女は体勢を崩さず、膝を雷士の顎に打ち込む。衝撃で頭蓋が砕け、双剣士が後方へ吹き飛んだ。
だが次の瞬間、**氷霧を纏う剣舞士**が滑るように迫り、氷の軌跡で足元を封じる。
その動きに、南無三は口元を吊り上げ――笑った。
「――甘いよ☆」
氷の地面に足を取られるその瞬間、**天井から降りてくる影**。
**「んふふ、冷気など、わたくしには無粋に過ぎませんわ」**
蜘蛛の糸が煌めく銀の螺旋となって舞い、剣舞士の腕を絡め取る。
「!助かった〜☆さすが♡」
瓦礫の上、**アラクネノクタール**が宙を舞っていた。蜘蛛型の下半身が優雅に跳ね、上半身の美貌には一切の乱れがない。
**「貴女の突撃に追いつくのは骨が折れますわ、でも――」**
腕を大きく振るうと、無数の蜘蛛糸が敵の足元に絡み、**毒の槍兵**と**火炎鎧騎士**の動きを同時に止めた。
**「これでようやく、“舞台”が整いましたわね」**
爆風。
地鳴り。
吹き荒れる闇と光の属性乱舞。
南無三とアラクネノクタールの連携は、まるで百戦錬磨の踊り子のよう。
「せーのっ☆」
**「合わせますわよ、」**
南無三が影から突き出し、毒槍兵の首を薙ぎ、アラクネノクタールが火鎧騎士を跳び越えながら糸で内部に冷気を送り込む――
**パァン!**
内部から凍結・破砕。火炎鎧騎士が破裂するように崩れた。
だが、背後から**闇に溶ける斥候型**が南無三へ迫る。
反応が一瞬間に合わない――!
その瞬間、**空の彼方から、七色の光線が降った。**
**「レーザー、発射ぁああだもんッッ!!」**
遥か後方の崖上。
**一つ目小僧**の額から放たれた**レーザー**が、一直線に戦場を貫き、斥候型を蒸発させる。
**ズバァァアァアアン!!**
その余波だけで戦場の空気が一変する。
「おぉお〜っ! さっすがウチの目玉ボーイ☆」
「いつも見てますわ、あの“眼”だけは……!」
南無三とアラクネノクタールが視線を交わす――その間にも、残る四体の護衛兵が前に出る。
**地の装甲獣人**が突進。全身が岩のように硬く、物理が効かない。
その後方、**呪詛の亡霊法師**が詠唱を開始。
「私が法師を止めるわ!」とアラクネノクタールが糸を投げ、
南無三は空を舞いながら、装甲獣人の背へ飛び乗る。
「鈍重系は、上からいくのネ☆」
獣人の背で呪符を連打。
地属性を逆流させる術式が展開し、装甲がひび割れた。
そのひびを狙って、アラクネノクタールが毒糸を一閃。
「割れ目に流し込みますわ……女の秘奥義♪」
ゴギャアア……!
獣人が地面に崩れ落ちたと同時に、南無三が呪詛法師の詠唱前に突貫。
「黙って呪ってりゃいいってわけじゃないのだ☆」
短刀一閃。法師の仮面を貫き、闇の術式が霧散する。
残るは二体――
**風を斬る大太刀使い**と、最後にして最強の敵――
黒曜杖を構えた**術者本人**。
ローブが揺れる。
空間が歪む。
彼の気配が、ただの人間ではない“何か”に変貌し始めていた。
「フ……ここまで辿り着くとは、な」
**「だが、まだ“終”ではない」**
黒曜杖が打ち下ろされる。
地面の魔法陣が爆ぜ、**無限再生の禁忌術式**が始動する。




