第百九話「英雄なき戦場 死者、なお剣を執る」 No Heroes Left — Yet the Dead Still Take Up the Blade
霧が濃密に絡みつき、瓦礫の隙間から腐敗した風が漂う。静寂を切り裂くように、足音が重なった。死者たちの軍勢が再び動き出す。
前衛の盾兵は鉄錆びた楯を高く掲げ、筋肉を震わせて盾の一撃を繰り出す。斬撃が跳ね返され、刃は鈍く光る。鋭い連続斬撃が盾の隙を狙い、鋭い一撃が鎧の継ぎ目を貫く。
黒い糸が戦場を舞い、敵の呪文詠唱者を捕縛する。逃げようとする魔術師の指先に絡みつき、詠唱が途切れる。糸を操る者の動きは無駄なく、静かに、しかし確実に敵の力を削る。
地面が砕け、拳が轟音を轟かせる。大地を揺るがす一撃は複数の敵を吹き飛ばし、煙と埃が立ち上る。怒りの表情は熱を帯び、動きは途切れず連続攻撃へと繋がる。
虹色の光が鋭く閃き、まばゆいレーザーが一気に数体の死者を貫いた。爆ぜる骨の破片と血の飛沫が宙を舞い、致命の一撃が戦局を大きく傾ける。
矢が雨のように降り注ぎ、空気を切り裂く。身のこなしは素早く、数多の矢をかわしつつ、反撃の一射は敵の急所を逃さない。矢の軌跡が生き生きと空を描く。
足元に黒い炎が這い、敵の歩みを焼き断つ。火の精霊が吐息を吹きかけるように燃え広がり、逃げ場を奪う。敵の悲鳴は炎にかき消された。
刃が舞い、風を切る音が響く。連撃の雨は敵の連携を崩し、陣形に亀裂を入れる。敵の動きは鈍り、隙間から次々と攻撃が叩き込まれる。
呪文陣がうっすら光り、魔術師が再び詠唱を始めるが、黒い糸が絡みつき声を奪う。瞬時に呪文が破られ、死者たちの抵抗は薄れていく。
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突然、霧の中から新たな敵影が立ち現れる。数十の死者が新たな陣形を組み、前線に押し寄せる。鉄兜の戦士、鎖帷子の弓兵、骨の魔術師、いずれも戦闘経験を感じさせる動きだ。
新たな盾兵が大盾を叩きつけ、地面に震動を走らせる。弓兵は矢の束を放ち、空中に稲妻のように飛び交う。魔術師の呪文は不気味な闇の力をまとい、死の冷気が戦場を包み込む。
死者の軍団は絶え間なく増え続ける。瓦礫の陰からさらに大群が這い出し、幾重にも重なる層を形成。数の暴力が押し寄せ、圧倒的な数に包囲される。
地面に矢が刺さり、炎が噴き上がり、刃が交錯し、飛び散る血の匂いと焼け焦げた鉄の匂いが鼻を打つ。叫び声はなく、ただ機械のような連携の音だけが響く。
盾兵が前に突き出した盾で盾突きを繰り出し、次の瞬間には後ろから別の死者が斬りかかる。弓兵の矢は連射され、魔術師の呪文が霧を割る。攻撃の波は絶えず襲いかかる。
蜘蛛の糸のような魔術が絡まり、敵の動きを封じる。雷撃が轟き、敵の陣形を切り裂く。地面が裂け、槍が飛び出し敵を突き刺す。無数の攻撃が複雑に絡み合い、戦場は混沌の渦に包まれた。
攻撃の中心にいる者は、一瞬たりとも隙を見せず、次々に攻撃を繰り出す。目の虹色の光線は敵を一撃必殺、居合い切りの刃は敵の防御を切り裂き、黒炎は逃げ場を奪う。
しかし敵もただの死体ではなかった。彼らの動きは精巧な連携を保ち、互いの隙をカバーし合う。数の多さだけでなく、質の高さがこの戦いを難しくする。
戦いは幾度も押し引きされ、霧の中に光と影が踊る。刺すような風、焦げた匂い、金属の響き、そして死の静寂の中で、最強の戦士たちは前に進み続けた。
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霧が晴れ、瓦礫に埋もれた死者の群れはついに崩壊。しかしその奥には、さらなる影が潜んでいた。戦火の火種はまだ消えていない。
無言のまま、歩を進める戦士たち。次なる戦場へと向かう背中に、まだ消えぬ決意が宿っていた。




