第十話「刀神憑依」 Possession of the Sword God
「――終いだ、“鬼哭・朧斬月”!」
天が裂けるような絶叫と共に、茨木童子が地を蹴った。足元の地面が砕け散り、空気が刃となって流威を切り裂こうと迫る。その鬼気、まさに一閃。抜刀と同時、空間に月の弧を描きながら、妖刀《鬼哭》が深紅の軌跡を走らせた。
避けられない。流威もそれを悟っていた。
「来い、茨木童子……!」
あえて迎え撃つ構えを崩さず、霊力を胸に集める。激突の刹那、世界が無音となった。
――ズシュッ!
直撃。斬撃が流威の肩から腹へと斜めに走る。だが、次の瞬間、その刀が異変を起こした。
「なっ……!?」
茨木童子の手から妖刀が震え、蒼白い光を発し始めた。刃が唸りを上げ、異様な共鳴音が空を裂く。
「こ、こいつ……刀が……喰ってやがる……!」
妖気、霊力、感情、すべてを吸い上げ、刀が進化を始めた。柄に蒔かれた呪布が解け、刀身が脈打つように変形する。やがて――
「……名を得たか。《白鬼・禍鎖丸》……」
流威の呟きと同時、刀が人の姿を成し、白装束の付喪神が生まれ落ちた。鋭い目を光らせ、膝をつくようにして流威の前に跪く。
「主の命に従おう。我、白鬼・禍鎖丸」
「おいおい……オレの刀が、お前の式神になるのかよ」
呆れと笑いが混じった声で、茨木童子が肩をすくめた。
「……ま、いいか。オレもだ。見事だったぜ、陰陽師。お前、マジで気に入った」
次の瞬間、茨木童子が自らの魂印を切り裂き、契約の印を流威の掌に刻む。
「式神・茨木童子、ここに参上! お前が呼べば、地の果てでも駆けつけてやる!」
「……ありがとう。こちらこそ、頼りにするよ」
そして茨木はふっと悪戯っぽく笑い、続けた。
「そうだ、お前、酒呑童子って知ってるか?」
「……いや、名前だけは」
「アイツ、オレの親友でさ。強ぇヤツしか眼中にねぇ。でも、お前みたいな面白ぇヤツなら、アイツも気に入ると思うぜ?」
その言葉に、空気が一変した。
「ただな……アイツは“災害級”だ。下手すりゃ、町一つくらい普通に吹き飛ばすぜ?」
流威は一瞬、静かに目を閉じ、呟いた。
「会ってみたい。どうせ、避けられない因縁なら……こちらから迎え撃つ」
茨木童子がニヤリと笑い、空を仰ぐ。
「じゃあ決まりだな。次の舞台は――“地獄宴”だ」