第零話「堕天の序章 ― 神界アルカディオン決議」 Prologue of the Fallen: The Arkadion Accord
神は笑い、天使は堕ちる
神とは何か?
創造主? 崇拝の対象? それとも、破壊者――
神界アルカディオン。
そこは至高の存在たちが座す天の王座、秩序と理を司る聖域であったはずだった。
だが、永劫の時を越えた“力”の飽和は、神々を堕落させた。
彼らは己の退屈を紛らわすため、万物の命を玩具と化し、世界を“舞台”として嗤う存在となっていた。
「正義とは? 理とは?――否、全ては神の気まぐれによって決まる」
この神界の狂気に、唯一背を向けた存在がいた。
名を――熾天使ルシルフル。
誰よりも光を抱きながら、誰よりも神を憎んだ天使。
命を護り、希望を信じる“異端”として、神界に立ち向かったその瞬間、
天は裂け、海は吠え、冥が蠢き、世界はひとつの転機を迎える。
これは、堕天の物語。
正義を掲げた天使が、その信念のために神々全てを敵に回し、
そして――敗れ、堕ち、全てを失う、神話の序章である。
だが、それは終わりではない。
力も記憶も失いながらも、
たったひとつ、**「命が笑う世界を望む心」**だけは、胸に灯して――
運命という名の神話が、いま静かに幕を開ける。
神界アルカディオン。
雲海を割り、天柱のごとき神殿の奥――
天上議場には、静寂すらも凍てつく重圧があった。
玉座に座す神王ゼウスが、金の雷杖を軽く掲げる。
「――人間界の殲滅を、此処に、正式に決議する」
刹那、空気が爆ぜる。
神々の間にどよめきと嗤いが奔る。
「ようやく始まるか、千年の宴……」
「ふははは、壊すぞ、滅ぼすぞ、遊ぶぞ!」
「決議……? 遊戯だろう、これは」
天を統べる神々の顔に、神性とはかけ離れた喜悦の色が浮かぶ。
だがその時、
玉座の階より、ひとつの気配が立ち上がった。
白銀の翼を背に持つ熾天使――ルシルフル。
彼はまっすぐゼウスを睨みつけ、声を放つ。
「愚かな神々よ……命を弄ぶことが、貴様らの“道理”か!」
その瞬間、空気が変わった。
神々の視線が一斉にルシルフルへ注がれる。
「まだ“希望”などというものに縋るか、ルシルフル」
ゼウスが雷光の瞳で嘲る。
「ならば――砕けるがよい」
ズン――ッ!!
地響きと共に、最初に動いたのは海神ポセイドン。
神槍トリアイナを地に突き立て、周囲に青雷の波動を巻き起こす。
「貴様の正義など、潮に流してくれよう!!」
瞬間、神殿全体を覆うほどの大津波が天井を突き破り、
ルシルフルを押し潰さんと襲い掛かる。
「退けぬ! 命は、神の遊戯などではないッ!」
ルシルフルが聖光を纏い、空へ飛翔。
翼が閃光を描き、光速の反撃を放つ――!
ドゴォォォン!!
蒼雷と聖光がぶつかり合い、神殿の柱が一瞬で粉砕される。
壁が崩れ、空が割れ、次元が軋む。
そして――更なる悪意が、神界の裂け目から溢れ出す。
「……地獄の番人が、暇を持て余してな」
闇より現れし死の王――冥王ハデス。
その背後には、漆黒のローブに鎌を携えた無数の死神たちが従っていた。
「“沈黙”を望むなら、貴様の光を消してやろう」
ハデスが冥鎌を構えると、死神の一体が前へ躍り出る。
そいつは低く腰を落とし、鎌を全身のバネで溜め、ブーメランのように全力で振り抜いた!
シュゥウウン――ッ!!
冥鎌が漆黒の弧を描き、空間ごと裂いてルシルフルへ迫る。
「ふっ!」
ルシルフルはそれをギリギリで回避、
空中で半回転しながら聖なる刃を投げ返し、死神を一閃!
「まだだ――!」
次の瞬間、神々の高みより大量の神術が飛来。
雷槍、氷柱、炎龍、重力弾、時空崩壊魔法――数十の神が遠距離からルシルフルを狙い撃つ。
「派手にやれぇぇぇ!!」
「神界大戦だァ!!」
ルシルフルは宙を駆け、聖光の盾で防ぎ、反撃しながら叫ぶ。
「これが神界か!? 正義も理もない、殺戮の饗宴!!」
だがその隙に、ポセイドンのトリアイナが突き出され、
雷が咆哮する。
続けて、ハデスの冥鎌が、空間を腐食させながら背後から迫る。
光の盾が軋みを上げ――ヒビが入る。
「これ以上は……もたぬ、が――!!」
一瞬の閃光。
ルシルフルは神速の反撃で冥鎌を弾き、
続けて回転斬撃を叩き込み、ハデスの右腕を断ち切った!!
グアァァァアア!!
ハデスが断末魔の咆哮を上げ、血ではなく闇が飛び散る。
だが――
「――堕ちろ」
ハデスが左手で放った一閃の冥撃が、
天と地の境界を引き裂き、
ルシルフルの身体を弾き飛ばす。
彼は宙を舞い、神殿の中心へ墜落。
床が割れ、翼が砕け、聖光が弾け散る。
神々の狂気に包まれる中、玉座に座すゼウスが低く嗤う。
「愉快だ……が、もう少し踊ってもらおうか」
ゼウスが命じる。
「堕とせ。記憶と力を封じ、無力な姿で人界へ。
這い上がる様こそが、我らの極上の愉悦となろう」
そして――
ルシルフルの白銀の翼が、漆黒へと変わっていく。
力の封印と共に、その姿は人間の少年へと変貌し、
彼は崩壊した神殿の隙間から、陽の国へと落ちていく。
神の加護なき空を、ただ一筋の光だけが、彼の身体に宿る。
そして誰も知らぬままに――
新たな神話のページが、静かに開かれた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
本作は、「もし安倍晴明の血を引く少年が天使の生まれ変わりだったら?」という厨二妄想から始まりました。
神話、陰陽術、異世界、神界バトル、猫又、百鬼夜行、そして式神と、筆者の“好き”をこれでもかと詰め込みつつ、物語を展開しています。
安倍流威の物語はまだ始まったばかり。
京都編は一つの区切りにすぎず、ここから先――神界の思惑、冥府の陰謀、そして「失われた記憶」が鍵を握る新たな戦いへと突入します。
また、式神たちにもスポットを当て、各々の過去や戦闘スタイル、進化の可能性も描いていきます。