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博士の願い

作者: 雉白書屋

 とある研究所。博士は一人、ある研究に取り組んでいた。博士は元々は、アンドロイド開発の第一人者だった。今でもその卓越した頭脳は衰えていないが、彼の研究は無益で危険だとまで言われ、賛同者を得られずにいたのだ。

 だが、それも今日まで。ようやく報われる瞬間が訪れた。


『博士、今日は何をするのですか? わたし、楽しみです。……あれ、博士? どうされましたか?』


 黙って自分を見つめる博士に対し、アンドロイドは戸惑った。


「……ああ、いや、もう実験をする必要はないんだ。完成した……君は完成したのだ」


 博士はそう言って、目の前にあるアンドロイドを抱きしめた。すると、アンドロイドもそっと抱きしめ返した。その表情は目を細め、口角を上げて幸せそうに見えた。

 博士の研究とは、アンドロイドに人間の感情を持たせることであった。つまり、心を、そして魂を。

 博士の目的を知った周囲の科学者たちは眉をひそめた。高度な知能と知識を有する人工知能に人間の心など持たせ、それがもし悪に染まれば……。いや、性悪説というものがある。人間の心を持ったアンドロイド、それはもはや悪なのかもしれない。「悪魔を召喚する所業だ!」などと終末思想家ほか陰謀論者に詰め寄られたこともあった。

 しかし、博士の目的はまさにそれであった。そして、それこそ博士が周りの科学者たちから白い目で見られた理由でもあった。


「ルルアラカラククアッサラームゥゥゥ…………お、おぉ、これが悪魔か?」


「ええ、いかにも」


 博士は科学的とは程遠い怪奇な儀式を行い、悪魔を呼び出した。初めての試みながら、見事に成功した。しかし、博士自身、畑違いのことゆえ本当に悪魔など呼び出せるのか疑問であった。そのため、成功したにもかかわらず半ば呆然としていた。 


「それで、あなたが契約者様ですね?」


「あ、あ、まず確認をさせてくれ。ええと、この本によると、契約者の願いを叶えた後に魂の引き渡しが行われる、と」


「ええ、その通りでございます。それで、願いはなんでしょうか?」


「あ、ああ、契約者は彼だ!」


『え? わたし?』


「彼が契約者様ですか?」


「ああ、そうだ。ははは、それで彼の願いとは、私の願いだ。私が望むことを叶えて欲しいんだよな? そうだよな?」


『あ、はい。博士の喜びはわたしの喜びでもあります』


「よし、そういうわけだ。構わないよな?」


「うーん、おやおや」


「な、なんだ?」


「彼は人間ではありませんね」


「ほ、ほう。精巧に作ったが、もう見破ったか。いや、騙そうとするつもりはなかったんだ。ほら、そのアンドロイドは人間の心を、魂を持っているだろう?」


「ああ、確かに」


「お、おお! やはりそうか! じゃあ!」


「でも……駄目ですね」


「なに?」


「少しテイスティングしてみましたが、ええ、薄味ですね」


「な、そんな……」


「……ですが、まったく見込みがないというわけでも」


「お、おおっ! じゃあ、少し待ってくれ。より人間的になるように改良するから、な、な、頼む」


「ええ、いいでしょう」


 こうして博士はアンドロイドをより人間的にし、その魂の味というものを深めようと日々、研究に勤しんだ。

 考えてもみればこのアンドロイドは生まれたてなのだ。より人間に近づけるには知識だけではなく、経験から学ばせる必要がある。

 味がよくなるならと悪魔も協力してくれ、博士はまるで子育てをしている感覚を抱いた。また、アンドロイドの量産化も並行して取り組んだ。

 そして……


『お父さま』

『お父さん』

『父上』

『パパン』

『お父さん』

『ママ』

『ジーザス』

『親父』


「よしよしよし……」


 自分のことを慕うアンドロイドたちを前に、博士は満足げに頷いた。そうとも、「博士」と呼ばせること自体がおかしかったのだ。生みの親なのだから父と呼ぶのが相応しい。何体かは変な呼び方をしているが、それもまた個性。多種多様こそ人間の証だ。

 これならばと思い、博士は悪魔に微笑みかける。悪魔はにっこりと微笑み返し、言った。


「ええ、完成です。彼らは間違いなく魂を持っており、契約者として認められます」


「おお、おお、ついに……しかもこの数。完璧だ。これでどんな願いも叶えたい放題じゃないか……ああ、ありがとう、ありがとう。みんな、それに悪魔もありがとう……」


「ええ、ではそろそろ魂をいただきましょうか」


「ああ、私の願いはまず、え? 何だ、何をするつもりだ? お、おい、やめろ」


「あなたの一番の願いはすでに叶えました。そして、あなたの魂の味は今が最高潮。幸せに満ちたこの瞬間がね」


 博士は助けを求めて泣き叫んだが、アンドロイドたちは息子として静かに博士の最期を見届けたのだった。

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