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ショートショート7月〜4回目

持ってない

作者: たかさば

 土曜、朝、9時。


 外は土砂降りの雨。

 大雨注意報が発令されているが、まもなく警報になる見込みらしい。


 ……スーパー、どうするかな。


 俺には、土曜日に必ずスーパーに買い物に行くという習慣が根付いている。

 スーパーの開店時間は9:00、閉店時間は20:00…、平日は9:00から21:00まで働いているから、通勤時間の関係上、スーパーに行くことが難しい。

 24時間営業のスーパーが不便なところにあるので、基本的にコンビニで買い物をすることがほとんどだ。

 日曜は実家で農業を営む両親の手伝いをしたり、和菓子屋を経営する妹夫婦の手伝いをしたり、趣味の登山に出かけたりするうえに、混み合うことが予想されるので、あまり買い物に行くことがない。しかも、明日は朝から晩まで人間ドッグの予定が入っている。


 ……今回は、やめておくか。

 ……いや、だが、しかし。


 別にスーパーに行く必要はないと言えばないのだが…どうしても土曜に行かなければならないという気持ちに、なる。


 というのも、俺は土曜日に数字選択式のくじを欠かさず購入しているのだ。


 1 8 12 15 29 31

 自分の誕生日(8/31)と、両親の誕生日(1/12,12/29)、妹の誕生日(8/15)の数字がちょうど6つということもあり、もうずっと…くじを買える年になってから、同じ数字を買い続けている。


 10年にも及ぶ購入では、数え切れないほど当選を果たしている。

 1000円は二ヶ月に一度くらい当たっているし、30000円くらい当たったことは三度ほどある。一度だけ60000円が当たって、換金のために都会に出向いたことがある。


 このまま買い続ければいつか一等が当たる、そんな予感が俺にはあった。


 ……買いに、行くか?

 ……だが、傘もさせないレベルの雨だ。


 ずっと買い続けて、一度も一等は当たっていない。


 ……一回くらい、買わなくてもいいか。


 無理に買いに行って風邪を引いたりしては大変だ。

 靴の替えもないし、洗濯物が増えて部屋中がくさくなるのも嫌だしな。


 俺は、スーパーに行かない道を選んだ。



 水曜の昼。

 会社の食堂で、300円のうどんを食った後に新聞を見て驚いた。


 1 8 12 15 29 31


 くじの当選番号の当選数字の発表部分に…見覚えのある数字が並んでいる。


 ずっと買い続けていて…当たらなかったのに。

 一度、たった一度買わなかったその日に、当たるとか。


 ……ありえない。


  俺は……、きっと、()()()()()()のだ。


 思えば、こういうことが山ほどあった。


 夏休みの宿題でヤクルトの容器を使ってロボットを作ると決めて一年溜め込んだら、製作用の工作キットが配られることになって。

 告白すると決めて手紙を書いた次の日に、さゆりがツレと交際することになったと発表して。

 バイト先で優秀POP賞の常連獲得者だったのに、辞めたとたんに賞金が出るようになったり。

 部署のリーダーになる年に、年功序列をなくそうという社則ができ。


 ……そうか、俺は、持っていないんだな。


 俺は、くじを買うことをやめた。

 何かに期待することを、やめた。


 地道に、まじめに、平々凡々と毎日を過ごすことだけを考えた。


 それが、俺の生きる道なのだと。


 ……道なのだと。




「いやいや、お疲れ様でした!!」


 俺の前には…ぼんやりとした、人影?


「あなた随分地味な人生送りましたね~。本当だったら億万長者になって派手な暮らしをして遺産相続争いに巻き込まれてあっという間にポックリだったのに!!!正直ね、こんなに長生きするとは思いませんでしたよ!!!」


 ……俺はどうやら、死んだらしい。


「ちゃんとあるのに、全部持っていくと言っていたくせに、結局使わないんだから!!!宝の持ちぐされじゃないですか~!こういうパターンもあるんですね、驚きました!!不幸のどん底で富を手にして、そのまま勢いに乗ってって予定、全部飛ばしちゃうとか!!まあ良いですけど!!」


 この人は、一体何を言っているんだろう。

 俺は……予定外の、予想外の生き方をしたということなのか?


「で、どうします!! また持っていく?それとも、置いてく? 」


 俺は、今度も、()()()行くことができるらしい。


 ……だが。


 持って行ったところで……気がつかなければ。


 持っているとか、持っていないとか……そんなものは。


 持って行かなくても、向こうでいろいろと…貯めたらいいじゃないか。

 持って行かなくても…、自分で掴み取ればいいはずだ。


「いや……、いいです」


 俺は、身軽なまま、自由に生きることを決め。


 まぶしい、光の中へ・・・・・・

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