墓石の前の少女
「ふふふ、栞さんのお兄様って何でも知ってらっしゃるのね。」
栞は家に就くと真っ先に自分の部屋へと通した。和室で小さな机と押し入れがあるだけの殺風景の部屋だ。
洋室の部屋にしか住んだことのない麻友子には新鮮に感じた。
栞はジャンヌダルクの伝記だけでなく兄との思い出話も麻友子に話した。
「兄は乗馬も剣術も学問も僕より優れていた。よく馬で競走したが一度も勝てなかったよ。」
栞は残念そうにだけどどこか楽しそうに話す。
「お好きでしたのね。お兄様の事。」
「ああ、兄は僕の憧れだった。」
「それで男装を。」
「そうだな。この軍服も兄から譲り受けたものだ。」
栞は兄と同じ軍隊に入ることを夢見ていた。兄の死後書斎の机の中から栞宛の手紙が見つかった。そこにはこう書かれていた。
栞には僕と同じ道を歩んでほしくない、だけど止めても無駄だろう。だったら兄の軍服を着て国を守ってほしい。
栞のたった1人の兄より
「お兄様の意志を継ぎたいのですね。」
「ああ、だけど父は反対するんだ。女は軍隊には入れないって。」
「そんなことないわ。だってジャンヌダルクだって女だけど入れたのよ。だから栞さんだって。」
「ありがとう。」
ガラガラ
二人が笑い合っていると栞の母がやってきた。
「麻友子ちゃんそろそろ帰らなくていいの?家の人心配するんじゃないか。」
外を見るとすっかり日が落ちていた。
「麻友子さん、帰ろう。僕が送っていくよ。」
栞はジャンヌに麻友子を乗せて家まで送っていくことにした。家までの道順は麻友子が案内してくれた。
「こっち右側の道を入って。」
栞はジャンヌの手綱を引き右の道へ進む。
「着いたわ。ここよ。」
2人が着いたのは白いお屋敷だった。
「お嬢様!!」
屋敷の中から使用人達が出てきた。
「ばあや」
その中に乳母も入っている。
「お嬢様、どこに行ってたのですか?」
「栞さんの家にお邪魔していたのよ。」
帰りが遅いから警察に捜索願いを出そうとしていたそうだ。
「ばあやったら心配症なんだから。コンコン」
突然麻友子は咳をしだす。
「お嬢様、無理が祟ったのでしょう。今日はもうお休みなさい。」
使用人達は栞に一礼をして屋敷の中へと入っていく。
「さあ、ジャンヌ僕達も帰ろう。」
栞はジャンヌに乗って再び家路を急ぐ。
栞は近道に入ろうとすると再びジャンヌが嫌がる。
「荒れ果てた墓石の前を通ったら突然頭痛に見舞われたの。」
麻友子の言葉を思い出し遠回りをして帰ろうと思った。しかし日も沈んでおり遅くなるのも良くない。
「ジャンヌ、こっちの道を行こう。」
栞は意を決して墓地の前を通る近道を選ぶ。
墓石はどれも手入れされていたが一つだけ荒れ果てた物があった。その墓石の前に袴姿の少女が蹲っている。
(お参りに来た遺族か)
あまり気にせずジャンヌを走らせる栞。少女の前を通り過ぎようとした時
「ジャンヌどうした?」
ジャンヌが突然動かなくなる。
「あの、」
振り向くと墓石の前にいた少女がジャンヌのすぐ横に立っていた。
「突然すみませんが乗せてもらえませんでしょうか?」