1話
「…ということで朝礼のホームルームは終わりです。今日は全員出席していますね。この調子でいきましょう」
朝のホームルームが終わったようだ。また今日も憂鬱な一日が始まる。早く金曜日にならないかなあ。
高校二年目の秋のある日の朝、長谷部正忠は目をこすりながら寝ないように気をつけていた。
長谷部正忠は知識欲の化け物である。学校以外のときはほとんど様々な本や資料を読み、インターネットサーフィンを繰り返している。そして、ただ知識を蓄えるだけでなく、本などで書いてあったものを実際に見に行ってみたりもしていた。主に生物や狩り、植物や物理や歴史などが好きな分野で昨夜も遅くまで歴史の資料を読み漁っていたので寝不足なのである。
とりあえず一限目の準備でもするか。今日の一限は担任の授業か、科目は国語だな。
「今日も眠たそうだな」
突然声をかけられた。この声は谷口だな。
「そうだな、眠い」
「二年になってから目の下のクマがさらにすごいことになってるぞ。夜更かしもほどほどにな」
「そうだな。少し気をつけよう」
最近は夜更かしが多くなっていた。気をつけなくてはな。そんなことを考えているともう一限目が始まるようだ。
「やっべ。もう始まるじゃん」
谷口が急いで席に帰っていった。
「では、授業を始めます」
担任がそう言った瞬間だった。瞬間的に景色が変わり見慣れた教室から薄暗い森へと変貌を遂げた。突然のことで誰もが声も出せず体が固まった。時でも止まったのかというほど静寂な時間は体感で数分ほど続いた。
「ど、どういうことだよ」
「こ、ここどこだよ」
そう呟く声が聞こえた。俺もこの状況が理解できない。何故教室にいたのに森にいるのかを。誘拐された?ドッキリ?幻覚?いや、誘拐やドッキリはあり得ない。ここに来たのは一瞬だった。では幻覚か?ほっぺたをつねってみる。痛い。どうやら幻覚ではないようだ。そう思案しているうちに学級委員の池田慎太郎が声を出した。
「皆、何が起こったかは分からない。とはいえこのまま固まっていてはずっと分からないままだ。とりあえず状況を確認しよう」
適切な行動だ。とりあえず話を聞いておくか。
「まず、俺達は教室にいて一限目を迎えようとしていた。そして先生が授業を始めようとした瞬間にここにいた。そうだよね?」
何人かが頷く。
「何が起こったかは分からない、けどこうやって固まっていてもどうにもならない。だからどうすれば帰れるのかを見つけるために周りの状況を確認しよう」
賛成だ。まず周りを探索することは正しい。
「念の為に聞いておくけどポケットにスマホとか入れてる人いたりしないかな?」
池田がそう言った瞬間、地を蹴る音が聞こえた。
「ウオオオオーン」
そう吠えた狼のような生物はなんと生徒の一人に襲いかかってきた。
「うわあああああああああああ」
襲い掛かられた生徒が悲鳴をあげる。その時勇気を振り絞ってその生物に飛びかかる人が一人。担任だった。
「お前ら、先生がどうにかする。その間に逃げろ」
担任はそう言うが見捨てて逃げれるわけがない。その間に生物がもう一度吠えた。すると、もう二匹その生物が出てきた。
「皆、逃げよう」
池田が言って走り出したことで全員が彼に着いて行く。
あの担任は普段は頼りなかったがこんなに勇気のある人間だったのか。おそらく助からないだろう。絶対に生きて帰って遺族の方に伝えなくては。そう思いながら必死に逃げた。
「はあ、はあ、はあ、皆無事か?」
池田がそう言った。なんとか逃げ切れたようだ。生物、ややこしいから狼でいいか。狼に襲われた場所からかなり離れた少し開けた場所に俺たちはいた。どうやら全員無事だったようだ。何人かの泣き声が聞こえる。
しかしこれからどうしよう。おそらくポケットにスマホを入れている人はいない。ここがどこか分からない以上、動かずに救援を待つべきだ。しかしここに連れてこられたのは何らかの超常現象だとしか思えない。だとすればここが日本という保証もない。水も食料もない状況で長い間救援を待つことは不可能だ。せめて雨などが来てもしのげる場所に行かないといけない。よし、それを提案しよう。
そう思った瞬間にまた目の前の景色が変わった。
次は一人だった。目の前にはギリシャの神殿のような建物があり中に入ると魔法陣のようなものが描かれていて真ん中に座布団があった。俺はなんとなくその座布団に座ってみた。すると脳に直接声が響いた。
「汝らはこの世界に来たのは私が連れてきたからだ」
どう言うことだ?何故そんなことをした?お前は誰だ?
「私は地球の創造主であり観察者、改め神である。何故そんなことをしたかだと?娯楽のためだ。汝らは地球から私が新たに作ったこの世界に連れてこられたのだ。汝らが連れてこられた場所は化け物や危険な動物が住まうこの世界最大の森の最深部だ。地球では到底考えられないような現象、汝らの創作物によく出る魔法のようなものが存在する。そして人間には適正職というものが存在する。私が汝をここに呼び出したのはその魔法のようなものの使い方と適正職を選んでもらうためである。汝にあった適正職をいくつか選出しておいた。汝らにこれくらいは説明しておかなければすぐ死ぬだろう。それでは面白くない。一応言っておくがこの説明は汝のクラスメイトらにも同時に説明されている。さあ選べ」
そう言われた後に頭の中にはいくつかの職業が浮かんできた。
「おっと言い忘れていた。適正職ごとに何かしらのメリットとデメリットが存在する。説明書きの添えておいた。時間もいくらかかっても構わないからじっくり選べ」
こいつが神?そんなもの存在するのか?しかしこいつによって別の世界に連れてこられたのは間違いないだろう。今はそんなことを考えるよりその適正職とやらを選ぼうか。こいつのいうことが本当かは分からないが今は従うほかない。さて何にしよう。
まず頭の中に浮かんできた3つの適正職を見てみる。
大魔導士 強力な魔法を放てる、遠くから魔法を放てる、魔法を放つのに溜めが必要、小規模な魔法は不得手になる、打たれ弱い
魔法使い 中距離までの魔法が得意になる、大規模な魔法が打てない、魔法を放つまでが早くなる、打たれ弱い
僧侶 回復魔法が得意になる、病気に強くなる、力が弱くなる、打たれ弱い
この中だと何が正解だろう。他の職業も見れるようだが最初の三つから選ぶべきだという勘がある。まず俺の目的は何だ?生き残ることだ。この危険生物だらけの森で生き残るために必要な能力は戦う能力ではなく逃げる能力だろう。俺は虫ぐらいしか殺したことがない。いきなり動物なんて殺せない。そしてもう一つ、最悪逃げ切れない時に一人でも戦える能力が必要だ。クラスメイトが死んだり、クラスメイトとはぐれた時に仲間がいないと何もできない能力だと危険だ。このことから導きされる答えは魔法使いだ。大魔導士は魔法を放つための溜めをしている間は無防備になる。一人では戦いづらいだろう。僧侶は戦闘能力がない。回復魔法は欲しいが逃げ切れない時の保険として戦闘能力はほしい。魔法使いに決めた。
そう思うと自分の体の構造が変わったような感じがした。
「意外と早いではないか。では次に才能を三つ選んでもらう。魔法使いといえど魔法の才能がなければ魔法を使えない。好きに選べ」
は?才能?聞いていないぞ。
「言い忘れていた」
それでは仕方ないとなる訳あるか。まあ、文句を言ってもどうにも成らない。才能を選ぶとするか。
すると頭の中に才能の一覧が浮かんできた。火の魔法の才能や剣の才能など適正職業と違い様々な才能があるようだった。さっき考えていた逃げることに役立ちそうな才能を数十分かけて選んだ。
一つ目は風魔法の才能である。敵を風で吹き飛ばしたり追い風を作ったりできるかと思って選んだ。
二つ目は土魔法の才能である。壁を作ったりして身を守れるかもしれないと思い選んだ。
三つ目は近接格闘の才能である。おそらく徒手格闘から打撃武器全般の才能が得られるのだろう。剣や槍などの才能もあったので広く浅く才能が得られるのだろう。魔法以外の戦闘方法も必要だと思って選んだ。
「選び終わったか。では次に魔法の使い方について説明しよう。汝らの体の構造を少し変えたので集中すれば空中に漂う魔気というエネルギーの流れが見える。目の前の魔気を掴んで呼吸を整える。そして頭で出したい魔法をイメージする。すると、掴んだ魔気が魔法に変わる。慣れが必要だと思うがそれは自分でどうにかしろ。集中力が続く限り魔法を使えるが集中力の限界を突破しようとすると頭が破裂しそうになり気が狂うので注意しろ」
「以上でこの空間を終了する。まだ言い忘れていたことがあった。人里まで行くことができれば地球に帰してやる。つまらない死に方はするなよ。面白くないからな」
自称神がそう言った瞬間狼から逃走した後の場所に戻った。