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09 かたつむりさん

 かたつむりさんと言えば、どのようなかたつむりを思い浮かべるだろうか。


 でんでんむしむしかたつむり〜♪ の童謡に添えられるイラストはたいてい、つぶ貝タイプのかたつむりさんではなく、アンモナイトタイプ(アンモナイトさんたちも絶滅寸前にはめちゃくちゃになっていたが)の丸い殻を載せたかたつむりさんだと思う。直径1.5センチから、大きくて5センチほどのやつ。6月ごろになると雨の日にワラワラとコンクリートに登ってきて、晴れの日にそのまま張り付いて休眠してるアレ。


 さて、ある日のこと。


 私はなんだか忘れたが庭の砂を掘っていた。たぶん鉢植えに何か植えたかったんだと思う。掘っていると、何かがころんと砂の中から転がり出て来た。巻き貝……。


 5ミリほどの巻き貝。なぜ? ここは山奥で海に行こうと思ったら二時間は車を走らせなければならない。いやいや。巻き貝じゃなくてムカデの小さいのが丸まっているのかも知れない。


 今に巻きが解けるんじゃないかとじっと見ていると、なんと小さな頭が貝殻から顔を出し、さらにツノが出てきた。頭も1ミリあるかないか。ツノに至っては針の先にも満たない細さ。老眼でもないのに虫眼鏡を使いたくなるような、スケール感がおかしくなる眺め。


 かたつむりだ。こんなに小さい!


 生まれたばかりのかたつむりかと思ったが、それにしては巻きが入りすぎている。かたつむりの貝殻の巻きというのは、年を経るごとに増えていく。生まれたばかりなら巻きは少ないはずなのに、このかたつむりは数えきれないくらいに何重にも巻いている。これで大人なんじゃないのか。


 そのころ私は雑草の寄せ植えに凝っており(変態)、ちょっとお高いヨーグルトやプリンが入って売られていることでお馴染みの丸っこいガラスビンに土と雑草の種を入れて、今時の言い方で言うテラリウムを作っていた。ちょうど春にカタバミとハコベの種を撒いていたビンの中で花が咲いていたので、その中にその極小のかたつむりさんを入れてみた。飼ってみようと思ったのである。大きくなったら普通のかたつむりの子供。大きくならなかったら……。


 かたつむりさんはそのガラスビンの中で、頭とツノを出して暮らし始めてくれた。


 この極小のかたつむりさんは本当に可愛らしかった。なにしろ小さい。1/6フィギュアの世界のかたつむりみたいな感じなのだ。どういうわけか、小さなビンの中のハコベとカタバミも、外で生えるほどには大きく育たなかった。まるで自分の閉じ込められた空間の広さをあらかじめ把握してるみたいに、葉っぱも花も小ぶりに育った。それがまた、かたつむりさんの世界にしっくりきた。かたつむりさんはたいてい、ビンの真ん中に立てかけた細くて小さな枝の上にいた。


 飼い始めて一月たち、二月たち、案の定、かたつむりさんは全く大きくならなかった。いくら越冬できて長命なかたつむりさんでも、全く大きくならないというのはやはりこれで育ちきった状態なのだ。でも図鑑をいくらめくっても、これほど小さなかたつむりさんのことは載っていない。このかたつむりさんは何なのか? 新種じゃなかろうか。


 そんなある秋の日、物凄い暴風雨が吹いた。そして私はうっかりかたつむりさんの小さな家を出しっぱなしにしてしまった。翌日、この小瓶がひっくり返っているのを見て狼狽した。かたつむりさんが溺れて死んでしまったかも!!!


 このかたつむりさんの家だが、フタは普通植木鉢の一番下に敷く網目状のアレを置いておくだけだったので、ひっくり返った小瓶からは砂がこぼれ、カタバミも根っこが丸出しになっていた。かたつむりさんの姿は見えない。


 カタバミを退け、ハコベを取り出してみる。かたつむりさんを見つけられない。


 また砂に埋まってしまったのかと砂も全部ビンから出してほぐしてみる。かたつむりさんは影も形もない。


 このようにして、極小のかたつむりさんは嵐に紛れてどこかに消えてしまったのだった。




 大人になってもこのかたつむりさんのことは凄く気になっていた。私以外にそんなちいさなかたつむりさんを見たことがある人に会ったことがない。Google先生に聞いてみても、「小さなカタツムリと言えば『オナジマイマイ』」。オナジマイマイさんは1センチから2センチほど。極小さんに比べればでかいのだ。また、極小さんはかなり平べったかったが、オナジマイマイさんはふっくらしている。


 それでも調べていると、私が見たのと同じと思われる「5ミリくらいの黒っぽいかたつむりさん」の写真や目撃情報がちらほらあるので、おそらく新種ではないのだろう。新種だったら「カミカクシナミニミウシナウマイマイ」とか付けてやったのに。略してカミカミウシマイマイ。


 ということで、カミカミウシマイマイの詳細にお心当たりがある方はぜひご一報ください。







 挿絵(By みてみん)


 

 「なぞのいきものおぼえがき」はこれにて最終話となります。流石にそんなに変な生き物に頻繁に出会いませんので、ストレートにネタ切れです。お読み頂いた皆様、ご感想、評価、いいね、ブックマークなど頂いた皆様におかれましては誠にありがとうございました。


 なお、このエッセイだけ読むと作者は動物愛護の精神に溢れた聖人みたいですが、実際のところ例えばアリさんなんかは末代まで呪われるレベルで虐殺しています。何回もビンに閉じ込めて巣作りさせてごめんね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もっと読みたかったので、私としては残念ですが⋯⋯ 完結おめでとうございますm(*_ _)m 先にイラストだけ見ていたので、めっちゃぐるぐる多いなと思っていたら、実際にそういうやつだったん…
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