03 カラスさん
カラスという鳥の皆さんは、謎多き鳥さんである。
とても身近で頭もいいのに人間のペットにはならないプライド。腐るほどいるのに死体は見ない。「カラスの死骸はなぜ見あたらないのか」という本さえ出てしまうレベル。
私がド田舎に住んでいた時も、スズメやウシガエルや殿様ガエルの皆さんのご遺体はうんざりするほど見たが、カラスさんの死体というのは見たことがなかった。なんで? ゾウみたいに「カラスの墓場」みたいなのがあんの?
そんなカラスさんたちだが、一度だけ死体を見た。
その頃私はド田舎から小田舎に引っ越していたのだが、その家の前の電信柱の根元にご遺体があったのである。しかもどう見ても死後数日が経過したやつ。なんでや。朝なかったやんけ。
あまりにも珍しいのでまじまじと眺めてみる。どういうわけか虫は沸いていないが、目は落ち窪み羽が所々抜け落ちている。あまり詳細に書くとR15指定になるのでこの辺までにするが、色々と不思議な遺体の状況である。
ともあれ、家の前にカラスさんのご遺体があるというのはなかなかいただけない。まあ、庭にでも埋めるか、とスコップを取りに戻った。
そして戻ってきたら、もうご遺体がなくなっていた。
別に広大な家に住んでいるわけではない。ものの2、3分。そのほんの少しの間に、ぱっと半腐れの、乱暴に運べば足の一本も落ちそうな遺体は羽の一枚も残さず消えていたのである。
おお、何だか知らんがこりゃあカラスの死体を見ないわけだなと妙に納得した。
で、それからしばらくして。
回覧板を回しに隣の家に行ったところ、上の方から視線を感じた。ぱっと見るとブロック塀の上からはみ出した松の枝にカラスが止まっている。目が合った。
てっきり飛び立つだろうと思った。しかしそのカラスはまさに目を白黒させてこちらを見たまま微動だにしない。
これはひょっとして?
目を見たまま一歩近づく。逃げない。もう一歩。
手を伸ばす。まだ逃げない。黒くてつやつやした羽に触れる。暖かい。滑らかで何とも言えない柔らかさ。触らせてくれた。しかも逃げない。
謎。なんで触らせてくれんのこのカラス。怪我でもしてんの?
なんか申し訳ないなーと思って触るのをやめ、とりあえず回覧板を回した。帰りにもいたらパンでもやろ。
案の定、帰りにはもうそのカラスはいなかった。
あの時のカラスさん、元気ですか?