02 木の実さん(虫注意)
今回のは正体がわかっている生き物。
昔、母親が木の実を持って帰ってきた。
硬い木の実だった。なんでも、「林を散策していて見つけた」らしい。木の実のさらに中に入っていた芯の部分だと言う。
へー。
縦長に5センチ、少し扁平だが直径2センチといったところか。ごつごつしている。
「木の実の中に入ってたの? 梅干しの種みたいに?」
そうそう、と母は言った。なんの種かしらねえ、植えたら芽が出るかしら。
種か。確かに面白いかもしれない。というか、よくできてるなこの種。手に取ってじっくりと眺めてみた。硬い。でかい種だ。一瞬石に見えるようなアイボリーがかった灰色。上の部分が平たくなっているが、下の部分はしゅっとどんぐりの尻のようにおさまっている。
上の平たくなっているところを見ると、蝉の顔みたいに目のようなものが両側に形作られている。下の方もよく見れば横に線があり、虫の腹のようだ。凄い。この木の実は虫に似せているんだな。この形になって鳥に食べられやすくしてるわけ……。
んなわけあるかっ! 虫が木の実に擬態しとるんじゃ!
「これ虫だよ!」
「ギャアアー!」
母は虫を大事にバッグに入れて持ってきてしまったことを知って叫び声を上げた。せやろな。
後で調べてみたところ、それは「アケビコノハ」という蛾の蛹だったようだ。木の葉を器用に木の実のように巻いて中で蛹になる習性がある。
写真を見ると「もっと灰褐色ぽかったけどなあ」と思うが、母が「実をむいたら出てきた」と言うからには、少なくともアケビコノハさんのように木の葉を工夫して実っぽくするタイプの蛾のお子さんだったのだろう。
庭にお引き取りいただいた蛹の方は無事成虫になられただろうか。