01 蛇さん
一番印象に残っている謎の生き物は、へびだ。
蛇。
そのころ私は、道路を挟んだところに蓋もない1m幅の水路があり、その向こうは延々と田んぼが広がっていて、くそでかい家が点々とあり、藁の飛び出した土塀が続くような、物凄いド田舎に住んでいた。
そんなド田舎においては蛇というのはどこにでもいる。シマヘビはよく暖かい日に道路に寝ていてそのまま車に轢かれていたし、石垣に気配を感じて振り向くと青大将がこんにちはしているということもままあった。マムシを避けるために笹藪には踏み込まないよう言われていた。従って、大体の蛇は見慣れており、蛇を見たからと言って珍しいと思うようなこともなかった。
が、その日見た蛇は初めて見る蛇だった。
まだ小さい。一目で子供の蛇だとわかった。でも、恐ろしく美しかった。全身がエメラルドグリーンというか、パールグリーンなのだ。家の前、道路際の縁の下の通風口の下にその蛇はいたのである。
凄い。
何の蛇なのか。全く分からない。野生生物は不用意に近づくと逃げ出してしまう。じりじり距離を詰める。逃げない。間近で見る。本当にきれいだ。
一点のぶちも縞もない。ただただ一色の、輝くようなパールグリーンの子へび。こんな蛇は一度も見たことがない。蛇はこちらを見返してちろりと舌を出した。彼(彼女?)にも敵意がない。かといって、不用意に触れてこの蛇を嫌な気持ちにさせたくない。
神々しさに呆然とただ見つめるしかできなかった。蛇はゆっくりと、草むらの中に消えて行った。
昔ボーイスカウトをしており、たいていの山の生き物を知っている父に尋ねると、「それは青大将の子どもだ」と言った。青大将は見たことがある人ならお分かりと思うが、基本的にまだらの緑色をしており、個体によってはまだらが薄いために美しい緑色の蛇に見えるのだ。そのときは「そうなのか、青大将は綺麗なんだなあ」と納得した。
ところが、大人になってから蛇のことを調べないといけないことがあり(なんでや)、たまたま青大将の幼体を見たのだ。そこで衝撃を受けた。
これじゃない。
これはこれでかわいい。マムシみたい。
そう! 青大将の幼生というのは、茶色まだらのマムシに擬態しているのである。つまり、青大将の子どもが「全身むらなくパールグリーン」はありえないのだった。
じゃあ?? あのパールグリーン子へびは?
なお、「誰かが飼っていた海外の蛇が逃げたのでは」と思う方もいるかもしれないが、前述の通りくそのつく田舎である。そんな趣味を持っている人がいれば秒で村中の人に知れ渡るレベル。従って、その可能性は限りなくゼロに近い。また、何度Googleさんで思いつくだけの検索ワードで眺めてみても、一度もあれほどに美しいパールグリーンの蛇はお目にかかることはなかった。
というわけで、あのパールグリーンへびさんについては私の中で相当の「なぞのいきもの」扱いになっている。あんなキレイな姿を見せてくれてありがとう!