誰も一人じゃない。
人はだれしも自分の世界を持っている
親も 友達も 隣の家のおばちゃんも
同じ世界を持つ者はいない
共有できる世界はあるのに
完全一致の世界はない
世界には境界線がある
現実と精神の世界を分ける境界線が
でも 希に
境界線が薄い者がいる
彼らは変わった者として
軽蔑され 蔑まれ 追い出される
外れ者は仲間を求めてさまよう
公園で犬の散歩をしていた。公園には数百という蝉が群れを成して、合唱コンクールの練習をしている。そんな公園の向かいには、海と川の境目がある。そこを私は、〝バケモノ〟を呼んでいる。理由は単純で、バケモノが住んでいるからだ。私が小学二年生の頃、お母さんと散歩に行くと川の中で毛むくじゃらの何かが浮いていた。私はそれが何なのか理解するまで、二秒とかからなかった。それは、犬だった。白と黒のプリン風の色の毛をした犬だった。私はあまり犬に詳しくなかったので、犬種は分からなかったが、犬という判断はできた。お母さんは気付いていないのか、横切っていく。
「おかあさん、あそこにいぬがいるよ。」
私は指をさしながら、お母さんに言った。でも、お母さんは、ほほえみながら、
「どこにいるの。」
と、答えた。
私はお母さんが嘘をつくはずがないと思いつつ、
「あそこだよ。ほら、ぷかぷかういてるよ。」
お母さんには、伝わらなかった。
翌日、私はまたお母さんと散歩に行った。まだ、犬は浮いていた。でも少し違う。流されて変わったわけではない。その姿は、昨日より幼くなっていた。そして、昨日までは流れていなかった血が流れていた。私は、海に飛び込んだ。水は夏なのに冷たく、浅黒く、少しドロッとしょっぱい味をしていた。泳ぎなど知らない私は、犬を助けるために無我夢中で泳いだ。お母さんは多分私の名前を呼んだが、私には聞こえなかった。何も聞かず一心不乱に泳いだ。死にかけているかもしれない小さな命の火を消すまいと、目の前で死んでいく命を見たくないと、私は必死に泳いだ。
私が犬を捕まえた時、犬は冷たくなっていた。そして、私の目の前は真っ暗になった。
「…う…ょう……りょう!」
僕が目を覚ました時、お母さんとお父さんが僕の顔をのぞき込んでいた。起き上がろうとしても体が動かない。天井の光で目が眩む。
「涼!」
お母さんに抱きしめられた。泣きながらお母さんは、僕に覆いかぶさるように倒れこんだ。
「本当に心配したんだから。なんでいきなり水に飛び込んだのよ。泳げもしないのに。私、私、ずっとあなたの名前を呼んでたのに。」
お母さんはどうして、泣くばかりなのだろう。助けたかったのなら、名前を呼ばずに、飛び込むべきだろう。本当に僕のことを思っていたのか。全然わからない。
「僕どうなったの」
お母さんとお父さんの顔が曇った。そこには、白衣を着た男性と看護師らしき人もいた。彼らも同様の表情だった。いや、曇ったというより目を背けた。ゆっくりお父さんが近づいてきた。
「涼、お前は飛び込んで、溺れて、見た目が少し変わってしまった。」
何を言っているのかわからなかった。僕の視界には包帯がまかれているわけではないし、どこかがかゆいわけではない。ただ、体が重たすぎるだけだ。
「お母さんがお前を助けたのが、少し遅かったのかもしれない。お前が溺れてからお母さんが急いで飛び込んだが、その時にはお前の姿が少し変わっていた。」
涼が犬を助けるために飛び込んだ、その時の水の量はいつもより少し多くて涼の肩ぐらいまでだった。いや、涼の頭ぐらいまであったかもしれない。でも、その量なら成人女性の平均身長ほどあるお母さんにとっては、浅いのであった。
「ちょっと起こして。」
僕は、お父さんに頼んで少し体を起こしてもらった。
体をきょろきょろ見回したが、特にわからなかった。
「何が変わったの。」
僕はお父さんに聞いた。すると看護師さんが手鏡を僕に開いてくれた。そして、自分の今の姿に納得した。
髪は黒と白のプリンヘッド、ショートカットだった髪は肩の下まで伸びていて、何より目の色が黄色になっていた。そして、
「なるほどね。」
僕は小さく笑いながら言った。みんな唖然とした。いつの間にかお母さんの涙も止まっていた。
「涼?」
みんな僕の反応に驚いているようだった。僕は、自分の髪と同じ色の犬が足に乗っていることに気づいた。
それから、三日後、退院した僕は、犬と例の場所に行った。三日間の病院生活中に、みんなには犬が見えていないことに気が付いた。僕が舐められていても、足の周りをうろちょろしても、噛みついても、誰も何も反応しなかったからだ。そしてもう一つ、僕が女であること、幼稚園児であること、など僕の身の回りのことを再認識させようとお母さんが話してくれた。僕は分かり切っていたが、しゃべり方や言葉の使い方、一人称が〝僕〟であることをお母さんは、記憶喪失になっているのだと勘違いしていたのだろう。僕は黙ってその話を聞いていた。
「おい、犬。僕に付いて来てもなにもないぞ。あと、お前は幽霊なのか。」
犬は、何も言わずに僕の横についてくる。
「ふふふ…」
可愛い女の子の声がした。
「私はあなたの想像よ。あなたの心に潜んだ欲求を叶えるために、生まれたの。でも、私はあなたにしか見えないし、声もしない。感覚も伝わらない。あなたの想像って言ったけど、あなたの意志とは無関係に私は存在しているから消すこともできないわよ。」
ペラペラと話し始めた女はやはり、犬であった。
「僕の髪と目がお前と同じなのはなぜだ。」
そうだ。一番の疑問だ。僕の想像でできた存在なら僕に直接変化が起こるのはおかしい。しかも、この現象は誰にでも見えている。
「それは、副作用みたいなものね。多分。他にもあなたの欲求を叶えるために対価として〝子供らしさ〟も奪った。まあ、私はあなたの想像だからあなたが知らないことを私はいらないわ。さてと、ここまではチュートリアルよ。」
(まったく意味が分からない。てか、さらっと責任放棄しやがったな、こいつ。)
「あたりまえじゃない。私はあなたが思っているようにしかしゃべらないし、反応しないのよ。」
(なるほど。僕の考えもお見通しか。)
「そゆこと。」
明るい少女に僕は〝咲〟と名付けた。咲は毎朝、僕の膝の上で寝るようになった。どうやらお気に入りになったようだ。小さい僕の体では、起き上がるのもやっとだった。でも、咲はずっと僕のそばにいてくれる。少し口うるさく言ってくる時もあるけど、なんだかんだそれが好きなのだ。そして、僕らは毎日バケモノに行って、二人で話すようになった。二人が初めて会った場所。そして、僕が本物になれる場所。
咲と出会ってから、度々、変な感覚にかられた。人混みがダメになったり、芸術的センスに目覚めたれ、変な視線を感じるようになったり、いはゆる霊感の強い人に見られる症状が現れ始めた。でも、僕には霊は見えない。でも咲はずっと僕にそばにいる。たまに、咲は別に生き物を連れてくる。
「あなたの想像力は本当に豊かなのね。」
そういって、今日はハムスターを連れてきた。
「おれっちは、君の欲求を叶えるために来たっす!」
一昔前の陽気なお調子者のしゃべり方をしたハムスターは、僕の前で走り回った。咲も呆れた様子で、僕を見ながら、「あんた欲求強すぎ。」と顔で言ってくる。犬のくせに。
(僕の欲求ってなんだよ。)
「そんなの愛情欲よ。家族に愛されたって言うね。」
咲の言葉に、思い当たる節がいくつもあった。咲と出会う前、僕がまだ〝私〟のとき。僕はただひとつの感情で動いていた。子供らしい好奇心ではなく、大人からのプレッシャーだ。
私には上に兄姉がいる。兄は、成績優秀、部活もキャプテンを務め、友達、先生からの信頼も厚い優秀な生徒だ。姉も同様に、成績は兄に劣るとは言え、努力の才能があったため、成績は良く、人望も厚い素晴らしい人間だ。二人とも中身のいいひとだったので、私もそれを期待された。優しさを持ち、優秀でいることを当たり前とした〝クローン人間〟になるように言われていた。しかし、私は一つへまをした。いじめだ。私がしたわけではなく、された側なのだ。とても軽く、針のようないじめだ。でもそれは、一度ならず長い期間続いた。私は誰にも言わなかった。言えなかった。言ったところで変わらない、大人は子供のことを理解していないと、わかっていたからだ。だから、私は隠して学校に生き続けた。誰にも気づかれないように。そろばんの習い事の大好きな先生にも、ばれないように、弱みを見せないように、私は隠し通していた。だからだろうか、私は親がそんな私に気づかなかったことに失望したのだ。呆れ果てたのだ。本当にこの人が親なのかと、親に信頼が置けなくなっていた。そして、私はいつの間にか笑えなくなっていた。常に笑顔を振りまいている私には、本物の笑顔がどんなものなのか、どんな時にする顔なのかも忘れてしまった。仮面に仮面を重ね、作った道化の顔をみんなは私だと思い込んでいる。私自身もその仮面が取れないほどに浸透していく自分に嫌気がさしている。私の本当の私はどこへ行ったのか。本当にいるのか。私自身も信じられなくなった。仮の信頼免許証を私は肌身離さず持っていた。誰か私と一緒にいてほしい。この仮面を剥がしてほしい。本当の私を、真実の愛があるのなら、私に見せてほしい。なんて、空想の中に浸っていた。そんなとき、私は咲に出会ったのだ。
僕が愛を欲しているのは、よくわかった。そして、咲が現れたことも。
「僕が君から愛情を受けたいと思っているのなら、もっと温かくなれよ。」
「あなたがそれを言うの。まあ、あなたは私、私はあなただから、どちらも温かくはなれないかもね。」
「俺っちは、咲先輩のために来たんすよ。俺っちは今までのやつらとは違って、いつまでもいるっす!」
お調子者ハムスターは、咲にすり寄ってい行く。咲は嫌そうに足を上げて、僕の後ろに隠れた。
「ハムスター君は本当にいるのか?」
「もちろんっす!俺っちは、咲先輩をお守りするっす!」
(こいつは僕の想像なのに咲にべったりだな。何のためにいるんだよ。僕を守れよ。)
「ねえ、涼。本当にこの子も一緒にいるの?私少し苦手なタイプなんだけど。」
「僕もできることなら、追い出したいが、僕の想像だからなんとも。
「俺っちは、涼の中にいる心から指令を受けてきたっす。咲先輩が全然、涼の欲求を改善できないから、お前も行けって。だから、俺っちもいるっす!」
「咲のせいじゃねえか。」
「あなたが私に甘えないからでしょ!私だけのせいにしないでよ!あなたにも比はあるでしょ!」
咲は、鼻にしわを寄せながら、 僕に唸ってきた。
僕が家へ帰ると、お母さんが台所から声をかけてくる。
「お友達と遊んできたの?」
いつもこの調子だ。僕に友達はいないのに。
「いや、図書館で読書してた。」
「そうなの、時には外で遊ぶことも大事よ。遊び盛りなんだから。」
お母さんはまだ、僕のいじめのことを知らない。あの事件の後も僕へのいじめは止まらなかった。なおさら、強くなった。あの汚い水の飛び込んで、溺れて、一人でしゃべっているような奴は十分すぎるほどにいじめの対象だ。女子も〝私〟をぎこちなく使う僕を裂けるようになった。登校も、休み時間も、席替えでも、僕はみんなと離れて歩いている。話してくれるのは、担任の先生だけだ。その理由もわかっている。治安を維持するためだ。教員は、いつも味方のふりをする。目の前で僕が一人で給食を食べていても、見てみぬふりをして、昼休みに「遊ばないの?」と話しかける。この僕の状況を考えれば、「遊ばない。」の一択になるのは明白だ。ある日、
「涼くんがいじめられてると、他のクラスの子から報告がありました。本当ですか?」
と、今まで気づかなかったように朝の会で言った。下を向くやつ、窓の外を見る奴、クスクス笑うやつ、いろんな奴のいる中、僕だけが真っすぐ前を見ていた。そして、先生を見つめていた。
「涼くん、いじめられてるの?」
「いいえ。ぼっ…私は、一人が好きなのでいじめられて、仲間外れにされているわけではありません。」
みんながどんな表情をしているかわからないが、多分笑っているだろう。こんなに面白いいじめられっ子が他にいるだろうか。いじめられていることを隠し、かつ、自分が望んでやっていいると言い張るのだ。おそらく、明日からのいじめは一味変わるだろう。
「そうか、でも、一人遊びもみんなで遊ぶことも覚えた方がいいぞ。」
「はい。」
僕は、笑顔で返した。
今日の夕方もバケモノに行って、僕は咲と〝公〟に話した。今日の先生と僕の会話を。咲はその場で聞いていたが、公は、小さかったので家に置いて行っていたので、知らない。というより、僕は元々公とは仲良くない。あまり好きではない。咲も理解していることで、公はいいやつだが僕とは性格が合わないのだ。公は甘えたがありで、咲にべったりだ。僕の方が先に咲と知り合っていたのに生意気な奴だ。というがっつり私情で僕の想像の賜者は連れて行かない。でも、今日のことは面白かったので、公にも話してあげた。まぁ、咲が仲良くなってほしくて、話すように言ったので話すというのが本音だ。その内三人で学校に行きたいものだ。
僕が今日の話をすると、公は少しむすっとした顔で下を向いた。
「俺っち、涼が学校でそんなことになってるのしらなかった。咲先輩は知ってたんすよね?なんで、止めないんすか。」
僕と咲は顔を見合わせた。確かに、そうなる。僕たちは慣れ過ぎていたのかもしれない。もしかしたら、それが日常になっていて、同年代の子、先生のこと見下していたのかもしれない。僕は改めて、公がいいやつなんだと気づいた。
「それは、私にはどうしようもないからよ。涼以外の誰にも見えない私たちができるのは、涼を一人にしないことだけなの。公もわかるでしょ?」
咲は困っているようだった。耳は後ろに下がり、今のもクーと声を出しそうだった。僕は咲に申し訳ない気持ちになった。
「俺っちもそれはわかるっす。でも、それじゃ、俺っちたちのいる必要って、何なんすか。涼に友達ができたり、家族で仲良く過ごせるようになったら、俺っちたちは消えるんすか。そんな残酷な形で終わるような命なんすね。俺っちたちって。」
公の悩みは、すごく温かった。僕の顔が熱くなる。頬から上がってくる熱が、眼がしらに届いた時僕は泣いていたのだと気づいた。彼らはそうなる運命にあるんだと思った。
(二人がいなくなるくらいなら、僕は一生一人でいい。)
「涼、今のは私たちに対する、情けなの。」
咲も泣いていた。僕は初めて咲が泣いているところを見た。今まで笑っているか、怒っているところしか見たことがなかった。そうか、咲も知っていたんだ。もちろん、承知の上で僕に付いていてくれたんだ。
「ごめんなさい。俺っちは二人いを泣かせたくて、言ったわけじゃないっす。ただ、涼が心配で。」
「わかってる。ありがとう、公」
僕は、公の顔が見れなかった。優しさでしかできていない公を、純粋で正直で直球な公を、僕は正面から受け止められなかったのだ。
「おはよう、咲、公」
僕は、少し違和感を覚えながら、朝を迎えた。立ち上がって、歯磨きをして、顔を洗う。朝食にご飯とみそ汁、あと納豆などの適当なおかずを食べて、学校へ向かった。そして、僕はその違和感の正体に気づいた。咲と公がいなのだ。昨日の一件で、何かあったのかもしれない。僕の心の中にいる何者かが二人があまりにも役立たずだとでも言って、消されてしまったのだろうか。学校までの道のりが長く感じる。たった、数百メートルという簡単な道のりだ。でも、家から離れられない。二人がいたら、登校なんて一瞬で終わるのに。家から何メートル進んだだろうか。角をまっがて、あたりを見渡す。誰もいない。
学校についても、やはりいない。咲も公も、友達も。仲間外れは慣れっこのはずなのに、涙が出そうになる。感情を殺して、無で生きていた僕に、〝さみしさ〟が現れた。どうしてこんな感情が。消えろ。僕はそんなに弱くない。消えろ。友達なんていなくたって怖くない。やめろ。一人なんて普通だろ。やめろ。やめろ。やめろ。…
初めて僕はうつ向いていたのだと気づいた。教室の隅で、僕は一人でうずくまっていた。体操服や給食着に交じって、僕は息をひそめてうずくまっていた。顔を上げると、そこに年下の少年がいた。近すぎるぐらいい目の前に。鼻がくっつきそうなほど僕の顔に近づいてくる。その少年は、海兵のような服を着ていた。つばの黒い学生帽に、セーラー服、赤いスカーフを巻いて、膝上のショートパンツを履いている。靴も靴下も履いていない少年は、教室中を走っている。女の子のスカートの下や、男子の股の間から顔を出し、先生の目の前に立って、アッカンベーをしている。少年は声音出さず、ただ、好きなように走っている。金色に光るショートヘアーはなびかない。その少年は、僕の前に帰ってくると、ニコっと笑ってベランダから飛び降りた。三階建ての校舎の三階から飛び降りた。でも、だれも気付いていない。そうか、これも、僕の想像か。僕もなんだか、笑ってしまった。
家に帰って、真っ先に部屋へ行った。やはり誰もいない。僕は、夕食を食べにリビングに行った。
お風呂を上がって、部屋に戻った。どうせ、まだ、いないんだろう。なんて、フラグは回収されず、一週間がたった。一向に二人は現れないが、あのへんな少年が毎日やって来る。昼休みなると、走り回って、ベランダから飛び降りて消える。僕にとっては恒例行事になった。一種の暇つぶしだ。
いつも通り、夕食を食べて、お風呂に入って、部屋へ戻った。するとそこには、美男美女がいた。オレンジ髪で黒いフードをかぶった小学低学年くらいの少年と僕と同じくらいの年齢のツインテールの少女だった。なんだか見覚えのある雰囲気の二人が近づいてくる。
「涼ー!寂しかった?お待たせ。」
少女が僕に抱き着いた。
「えっ、君誰?」
僕は当たり前の反応をしてしまった。
「まあ、そうなるっすよね。こんなに、美形になったんだから。名乗ってほしければ名乗ってやらなくもないっすよ。」
なんだか、聞き覚えのある話し方。一昔前のチャラ男のようなしゃべり方。
「あなた、そんな言い方して、こんなに時間かかったの半分以上あなたの責任だからね。全く反省してないんだから。」
聞き覚えのある声、この世話を焼くような声。僕が長年効いてきた声。
「…咲と……公なの?」
「もう、涼!忘れかけてたの?悲しいなあ。ほら、私よ、咲よ。人間の姿になってきたの!」
足が震えた。手が震えた。口が緩んで、涙が出た。たった一週間、たった一週間二人がいなかっただけ。それは、僕にとって、とても長く、辛い経験だったのだと、改めて気づいた。
「これからは、涼と一緒に学校に通うは。」
咲はニコニコしながら言った。
「俺っちも通うんすからね。忘れないでくださいよ。あっ、一応言っておきますけど、俺っちは公っすからね!忘れないでくださいよ。」
「うん…うん……」
うなずきながら僕はずっと泣いてた。
「でも、どうやって人間になったの?僕そんな想像してないよ?」
「あなたは無意識に想像することの方が多いから、気づかなかったのね。涼らしいは。」
咲が、いつもの口調で言ってくる。
「そうっすね。俺っちたちの姿が色々あって楽しかったっす。」
「何、僕、そんなに二人のこと考えてたの。」
「予想以上だったっすよ!人間やトラ、宇宙人に植物までいっぱいあって、特に俺っちの中には、年齢別や、服装別の姿まであって面白かったすよ。それに、体型も……」
咲が、公の口を五本に指で覆った。
「まあ、ともかく、私たちは人間の姿で、涼と一緒に学校に通えるように頼んできたわ。」
僕が顔を赤くする直前、咲は公の口を塞ぎ、さらりと不思議なことを言った。
「……ん?なんで僕の想像に二人が、学校に通えるの?いや、はっ、全然普通のこと言ってないよね。」
咲と公は、そっぽを向いて口笛を吹いている。そんなに正直な反応は、誰でもするのだなあ、とおもった。何を隠しているのだろう。少し問うか。
「ねえ、何したの?」
僕の声に二人が震えた。
「いや、ちょっとお願いしてきたのよ。…みさ…に…。」
咲のこえがだんだん小さくなって、かすれている。
「誰に、何を、お願いしたの?」
僕は、協調して、微笑みながら聞いた。公はもう何かを漏らしそうになっている。
「咲先輩、俺っち、もう限界です。」
「ちょっと、公。しっかりしなさい、これに耐え切れなかったら、これからやっていけないわよ。」
ひそひそと、話し始める二人。
「えっと、涼、もう少し待ってくれない。あと少しで、説明できるから。」
どうゆうことだ。何も話が分からない。すると、天井の電気の光が強くなった。
(なんだこれ。)
「咲殿、公殿、約束の品ができましたぞ。あと神様からの伝言じゃ。〝くれぐれも、変なところでミスせんように〟との。伝えたからの。」
その光から、手がゆっくり出てきたと思ったら、大体そんなような話をして、帰って行った。
「よっし、これで俺っちも晴れて、人間っす。」
公が嬉しそうに、手から落ちてきた紙を見ている。僕はそれを獲った。そこには、
承認状
咲、並びに、公を人間界にて、実態を持つことを許可する。
なお、もし、人間以外の姿になってしまった場合、承認を剥奪する。
想像界本部長 勉
世界長 神
と書いてあった。僕は目を丸くした。
「咲、説明をしてくれ。」
「わかったわ。まず、私たちが消えた日の前日の夜、涼が寝てから、二人で話し合ったの。」
咲は、公と二人で、涼をこれから独り立ちできるように話し合ったらしい。そこで、涼の人間との距離感に着目したのだ。そして、自分たちを人間にして、涼が人間になれるようにしようと考えたのだという。
咲と公が来たのは、想像界というところで、そこには、人間の想像によって生み出された生き物たちが住んでいるらしい。そこで生み出された生き物は、想像者の周りにいたり、そのまま想像界に住んだり、生活は様々なのだとか。たまに、想像者ではない人の周りをうろつくやつもいるそうだが、そいつらは想像界へ戻される仕組みになっているそうだ。そして、そこでは年に一回、その想像によって生み出された生き物を人間界に実態を持たせて送るという行事が行われるそうで、それに参加したのだという。選ばれる生き物は、審査を通らないといけないらしく。一次審査は書類審査。生年月日、名前、想像者、思い出や実態動機など十個ほどの項目に回答していくのだ。二次審査は面接。改めて、なぜ人間界に行きたいのか、そこでどういう成果を上げたいのかなどを具体的に聞かれる。最終審査はプレゼンテーション。いくつかの資料を基に、五分間のプレゼンテーションを行うそうだ。今回の応募者が5000人、一次審査で100人に絞られ、最終審査で5人に絞られる。その先にあるのが究極審査である。この審査員は神様。世界の均衡のために、不自然なものはいくら良いことを言っても、落とされる。この審査の具体的な内容は、守秘義務だと言って、教えてくれなかったが、二人は顔を赤くしていた。後から、公を問いただすと、想像者への愛情を話すというお題だったらしい。公に何を言ったのかいくら聞いても、教えてはくれなかった。でも、その難関審査を通って、二人は、実態を手に入れたのだ。僕は、単純にすごくうれしかった。
初めての投稿でなので、まだまだです。どうぞ温かい目で見てください!
これは、シリーズ化を予定しているので、のんびり次回をお待ちください。
時々、詩などの投稿もするので、見ていただけるとありがたいです。