若返る年老いた子供
「ハッ、ハッ、…ッハ、……ハッハッ、ハッ…」
──夕暮れ時。
「もうすぐだ! 頑張れ──っ!!」
パキパキッと枝の折れる音、カサカサッと風で葉が揺れる音がする。木や葉は明度彩度が低いと少々気味が悪い。
──気のせいだろ?
しかし、そんな事は言ってられない。気にせず無我夢中で走る。
ここは──
「やっと出口だー!!」
その先には待ちに待った希望の光が──
「長かったぁぁああああ!!!!」
その薄暗い森を抜けると草原が広がっており、1000メートル級の山々が奥に見える。現在、4人の中年の無精髭や髪の毛は風に揺れて……いや……ついこの間まで彼らは少年だった……確かに少年だったはずだ!
傷を負った彼らは全身全霊を傾けてボタンを探していた。一丸となり、彼らは協力し合う。勝利のために──
「このあたりにあるはずだ!!」
疲労困憊の彼らは体力を使い果たし、いつ倒れてもおかしくはないだろう。しかし、これまで長く、長く続いた地獄の時間はまだまだ終わりそうもないのだ。
焦燥感に駆られる様子は凄まじい首の動きから読み取れる。そして同時に手足は震えていた。その震えの感覚はまるで差し迫る締め切りに必死に足掻くような……宿題がまだ終わってない…………ああ懐かしい…………。短い時間の中で濃すぎる体験が頭の中で壁となり、幾重にも連なる。すると、ふと過去を思い返そう、などと思ってみても思い返すことが難しい。濃すぎる体験の壁が回想開始時の初速を一気に削り取り、数年前の記憶が遙か古のようになってしまった。
苛立つ気持ちをグッと抑え込み、それぞれ違う方向を向いて探している。
「わかってるよ……」
森を走り抜け、息が上がった彼らの元に風が吹き、通り抜ける。風で揺れる一面の草原は若草色と緑黄色が織りなす波のよう。そこには夕陽で黄金色も添えられており、灰色の岩をも輝かせるほどだ。
双眼鏡を使い、辺りを探すが見つからない。握り拳くらいの大きさのボタンを探すには相当な集中力が必要である。
集中力が切れそうなところを必死で堪え、疲れ切った目をかろうじて見開いている。息をするのさえ、ひと苦労する。注意深く見回すと、ああ、およそ100メートル先から光の反射が──
「あっ、見つけたっ!!」
「何!?」
「どこ???」
「あっ、あれか!!」
ポールの上にある赤いボタンが夕陽を反射させる。その反射した光をキャッチするとすぐさま岩場を飛び降り飛び越え、指差す先に向かって全力で一斉に走り出し、目一杯手を伸ばしながら先頭の1人がボタンに飛びかかった。
ドンッ!!
「よしっ! って、あぶねっ!!」
飛びかかった勢いは徐々に落ち、ポールとボタンの角に頭と顔をぶつけそうになるも、何とか体を空中で捻り、幸い髪の毛に掠った程度で怪我はない。
「チーム番号860 承認」
ボタンを押した後に、ボタンから機械のような声でそう伝えられた。そして、少年たちはその場所から消え、別のエリアへとワープしていった。
ワープを終えた直後、シワは消え、垂れ下がる頬は引き締まり、みるみるうちに声もろとも若返っていく。
「あっ、あっ、ああー。声が若返った気がする」
小声でつぶやき地面に座り込む隣で、四つん這い状態で咳き込む仲間の汗が一滴、また一滴と顎から滴り落ちる。
「……ゲホッ、ゲホッ! ハァ……ハァ……ハァ……」
「大丈夫かよ……それにしても危なかったな。西の方に他のチームがいたし、少しでも発見が遅れてたら間に合わなかったぜ」
「ふーっ……でもクリアできて良かった、ああ……良かった……」
「休んでる暇はないんだ……行くぞ」
倒れ込む者を奮い立たせ、闘志を燃やすその姿に引き寄せられるように3人は腰をあげた。そして、新たなエリアで少年たちは再びボタンを探し始める。
澄んだ空気。深呼吸をすると肺が冷たくなる。穏やかに空気を吸って吐いてみる。ワープして来た彼らにとってそこは十分に肌寒いのだが、その空気の冷たさが心地良く今の心身を癒してくれる。
朝日に照らされると、眩しい。そこは、雲より高く、再び戦いが始まろうとしている。
──絶対に勝つ。アイツのためにも……。
この広い宇宙には一体どのくらい生命体が存在する惑星があるだろうか。きっと数えることなんて……、さぁ、どうだろう?
それらの惑星には必ずそれぞれの唯一無二の物語、歴史があるだろう。
そして──、
ここは、この星は、地球からずいぶん離れた惑星ユース。
地球よりも1年が少し短く300日で、1日が少し長く26時間である。そんな惑星ユースの子供たちは13歳から成長するのが早いらしい。
それはなぜか?
この星の王様たちが子供たちの若さを食っているからだ。つまり老化させているのだ。若さを食って何年経っても若々しい。その支配から逃れる方法はただ一つ。
運動会で勝利すること──
更新に時間がかかっております。第2話は大部分完成しておりますので、お待ちくださいませ。
よろしくお願いいたします。