初めての魔法
一歳になった。ここ半年ほどは魔力操作の練習ばかりしていた。パッと見では何をしているかわからないため赤子の体でも出来るのが素晴らしい。恐らく気付いてるのはセバスくらいだろう。そういえばセバスとも話すことができた。なんでも種族を隠したいらしくステータスをいじれるように練習したそうだ。もっとも鑑定なんて持ってる人はすくないらしいけど。
閑話休題。サラが席を外したので魔法の練習をしてみよう。今までは魔力操作ばかりで魔法を使ったことはなかった。想像魔法の効果はわかっても使い方はわからかったのでとりあえず魔力を上げていたのだ。結果として、
イリヤ・フェリクス 人族 男性 1歳
ステータス
HP 25 MP 400
力 12 頑強 7 魔力 250
知力 120 器用さ 38 運 300
となった。これでそろそろ使えないかと思ったのだ。さあ、時間もないしやってみよう。まずは安全に水あたりかな?窓に向かって念じてみた。
(水よ出ろ!)
急に体が怠くなってきた。急いで魔力の流れを絶つが空に小さな昏い雲が現れゲリラ豪雨のように雨が降り出した。びっくりして転んでしまったがすぐにサラが戻ってきて窓を閉めてから起こしてくれた。
「急に雨音がしてびっくりしましたよ。凄い通り雨でしたね。大丈夫でしたか?」
どうやら魔法を使ったとは思われていないようだ。よかったよかった。ついでに頼んでみよう。
「サラ、魔法について知りたい」
と、おねだりしてみた。
「わかりました。イリヤ様に関しては驚くことをやめましたし少しだけ見せてあげましょう」
そういって連れていかれたのは厨房だった。普段は使用人しか入ることがないため初めて来たが随分と清潔に使われているようだ。
「ん、サラじゃねぇか。どうした? っとイリヤ様もご一緒でしたか。」
奥から筋骨隆々の男、バッセンがやってきた。うちの料理長だ。
「イリヤ様が魔法について知りたいと言うのでお連れしました。ここならよく生活魔法が使われるでしょう?」
「そういうことか。丁度スープの仕込みを始めるところだったんだ。イリヤ様、派手な魔法はありませんが見てってくだせぇ」
そういってバッセンは大きな鍋に向かっていった。
「清らかな水よここに。ウォーター」
すると鍋の上からホースから吹き出すくらいの勢いで水が注がれだした。なるほど、完全に自分のやり方がおかしいことがわかった。まずはマニュアルを読まなきゃダメだったのか。
「このように料理人は普通より多く生活魔法を使うため他の人より少し魔力が多かったりするのですよ」
サラが解説してくれているが受け流し、
「サラ、魔法について書いてある本が読みたい」
サラは一時停止してから無表情でこちらを向き、バッセンは目を見開いてみている。
「イリヤ様には驚かされないのは無理みたいですね。昼食の時にご両親に頼んでみては?」
と言い、厨房を離れようとする。バッセンが驚いたままだったので「水、溢れるよ?」と告げ、慌てるところ見ないようにしながら着いていった。
そして昼食時、両親に頼んでみると、
「まさかもう字が読めるのか!?」
と驚く父を見て気付いた。一歳の子供に字が読めるはずもない。もちろん俺も読んだことがない。
「…考えてませんでした。字を覚えることから挑戦したいです。」
そう言うとサラがホッとしたような顔を見せた。いや失敗したな。一歳らしさとは難しい。
それでも両親は少し驚いた顔をしたままだったが
「イリヤは賢いものね。わかったわ。サラ、午後はイリヤに本を読んであげて。書斎から持って行って構わないわよね、あなた?」
そう母から問いかけられた父は若干難しい顔をしながらも「うむ」と答え、サラも「かしこまりました」と軽くお辞儀した。やはり本は高価なんだろうかと思いながら食事を再開した。
そして午後、サラが部屋に一冊の本をもってきてくれ、
「字を覚えるとのことでしたので、絵のついている植物図鑑を借りてきました」
と言って分厚い革張りの本を机に置いた。
サラが指をさしながら字を読んでくれるのを追っているがこれがなかなか楽しい。完全記憶のスキルのおかげでどんどん覚えられるからだ。サラが休憩してる間に音読しながら読み進めていると、
「…そうでした。これがイリヤ様ですね。字はほとんど覚えたようなので夕食の時に魔導書を頼んでみては?」
と言われた。むう、やはり一歳児は難しい。
そして夕食時、またも両親に頼むと呆れた顔で
「いいわ、イリヤが優秀なのは分かっていたもの。あなた、生活魔法の魔導書を購入しましょう」
と言い父は昼よりも難しい顔で「…うむ」と答えた。
うちに魔導書はなかったのか。これは申し訳ないことをしたかなと思いつつもニコニコしながら頷くと両親もニコニコしだした。チョロい。ちなみに兄のジークとボレアも頼んだことで父だけはまた難しい顔に戻った。…タイミングが悪いよ、兄上たち。読み終わったら貸すのに。
そして一週間後、遂に魔導書が届いた。ちなみにこの世界の暦は地球と一緒だった。神様が伝えたもので正確なんだそうだ。
そんなことより魔導書である。早速開いてみると外からはわからなかったがインクが魔力を帯びているようだ。読んでいくと魔法の詠唱と効果しか載っていなかった。これじゃマニュアルにはならないなと思いながらも読み終えるとインクが光ってから消えてしまった。恐る恐る「静かな灯りを。ライト」と唱えると指先から光が現れた。
「もう覚えられたのですね。文字を覚えた時もそうですがイリヤ様の記憶力は本当に凄いです」
静かに納得するサラを尻目に考える。そりゃ父様も難しい顔をする訳だ。読むだけで魔法が使えるファンタジーアイテムが安いはずがないもの。それも三人分だし。魔法を覚えるのはこれが一般的なのか聞くとやはりそうではなく、魔法を使える人から詠唱と効果を聞いてひたすら練習するそうだ。そりゃ生活魔法が庶民に伝わるんだからそういう方法があるよね。
その日の夕食時に魔法が使えたことを伝えると凄く驚かれ、喜ばれた。なんでも魔導書で覚えると少し魔力が上がるとのこと。だから高いんだね。
「あのね、父様、母様。僕は魔導書じゃなくて魔法の説明が書いてある本が欲しかったのです」
マニュアルが欲しかったのでそう伝えると、
「ふむ。論文なら取り寄せるのに時間がかかるがそこまで高くはない。ただ内容は難しいぞ?」
少し脅し気味に言われたので、真面目な顔で
「時間がかかっても勉強します。…だめですか?」
と最後は上目使いで聞けば、両親は破顔して
「そんなことないわ!イリヤなら大丈夫よ。取り寄せるわ!」
やはりチョロい。こうして魔法習得にまた一歩踏み出した。




