68 対決(2)
「エルシー、大丈夫か?」
イーサンがエルシーの顔をのぞき込んできたが、涙で彼の顔がゆがんで見えた。
「ばか……どうして、龍を……ルーカスを殺してしまったの?」
ぱちん。エルシーの白い手がイーサンの頬を打った。イーサンはエルシーの平手打ちを避けようとしなかった。真っすぐにエルシーの顔を見つめて、投げかけられた疑問に答えた。
「あいつが望んだことだからだ」
「だからって――」
頬をたたくだけではこと足りず、エルシーはイーサンを追及した。
「すごいぞ、龍が真っ黒こげだ」
見物人の歓声かと思いきや、騎士隊の冷やかしだった。ようやく門の警備をくぐり抜けてきた。街中で派手な魔法がさく烈したのだ。マッケンジーの従者も私有地だからと突っぱねることができなくなったのだろう。
騎士隊は二手に分かれて現場の対応に当たる。一方が邸内の敷地に入り、もう一方は外に残って通行人と野次馬の誘導だ。
「さっきの雷は君の魔法なんだな?」
騎士隊の責任者と思われる年配の男性がイーサンたちのもとへやってきた。
「ああ。これ以上街中で暴れられでもしたら困るからな」
質問に対して、イーサンの答えはそっけないものだった。エルシーは黙って魔法使いと騎士の会話に耳を傾ける。
「見事な魔法だった。感心したよ。ところで、なぜ龍がこの国に現れたのか理由を知っているのか?」
新たな問いに、イーサンは答えに迷っているように見えた。
「知ってるが……話せばかなり長い。もっとも、話したところで信じてもらえるかどうか」
イーサンの言葉に、騎士隊の男性は手ぶりで部下を呼び寄せた。見た目はイーサンと同じくらいの青年だ。話をメモにとるつもりらしい。
「話を聞こう。まずは君の名前を教えてくれ」
「イーサン。イーサン・ブレイク。三十七年前に龍の殲滅部隊に参加していた魔法使いだ」
記録をとり始めた若い騎士は眉をひそめた。
「三十七年前って……君はどう見ても二十歳そこそこにしか見えないが――」
「話せば長いと言ったはずだ。そこでのびてる魔法院のマッケンジー院長が証人になってくれる」
そう、説明は長い時間を要した。
物語は三十七年前からの出来事から語らなければならなかったのだから。
座り込んだ場所からなかなか立ち上がれなかったエルシーは、騎士たちとイーサンの会話を聞いていたが――
「うわっ! なんだよ、この猫かぁー」
背後から聞こえた声に、エルシーはハッとした。声の主は塀沿いを見回る騎士で、彼は突如塀を飛び上がった生き物に驚いたらしい。
騎士の注意を引いていたのは、塀の上から庭の様子をうかがう金茶色の猫だった。緑色の目をクリッと見開いたかと思えば、塀を越えて外へ逃げてしまった。
――ルーカスだ。
「どうして……?」
事情聴取を受けているイーサンと目が合った。
不良魔法使いは不敵な笑みを口元に浮かべている。
意地悪な魔法使い――イーサン・ブレイクらしい笑みを。
イーサンやマッケンジーの証言により、三十七年前の真実が明らかにされた。事情を聞きとった騎士隊からしかるべき機関に報告され、すべてはシャルブルーム現国王の知るところとなったのだ。




